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白峰家から二刻ほど歩いた先に、報告のあった村がある。

帝都とさほど距離も離れていないので、被害を拡大させないよう警戒しつつ状況把握に努めた。

氾濫した川は水路がひかれ、帝都とも繋がっている。

今回の報では氾濫した川に出没したあやかしを退治するよう求められていた。

「菊里ちゃんは瀬織ちゃんと双子なんだよな? どっちがお姉ちゃん?」

「わ、私がお姉ちゃんですっ! お恥ずかしながら……」

「そっかぁ。なんかわかるなぁ。瀬織ちゃんは妹って感じ」

意外な回答だと目を丸くする。

出来損ないの姉のため、しっかり者の瀬織が妹だと知れば逆だろうと言われるのがオチ。

遊磨の視点は人と異なるようだ。

村までの道のりも遊磨のおかげで、和やかなものだった。

気さくに会話を広げていく姿は見習うべきものがある。

瀬織のとなりに立つにはコミュニケーション能力も必要だと意気込み、未来に胸を膨らませた。

「瀬織ってホントーにすごいんです! 美人で賢くて。それでいてとっても強くて!」

瀬織のすばらしさを表現するにはどの言葉も物足りない。

適切な表現がなく、単純明快な語彙で語るしかなく、苦悶するばかり。

私と瀬織が姉妹であり、かつ私が姉と認識された状態で語れるのはいつもの倍嬉しく感じた。

浮かれて話していると、遊磨がニカッと八重歯を見せて指で丸サインを作った。

「菊里ちゃんもすごい」

「えっ?」

「そんな風に愛される瀬織ちゃんは幸せ者だな」

「……そんなこと」

瀬織はそれを煙たがっているのに。

私の愛情は重くて重くて、厄介なものだろう。

少しずつ自分の中でかみ砕いてきた気持ち。

静芽は不服ながらも受け止めてくれて、遊磨はあやすように認めてくれる。
ポンと頭を撫でられると、涙が溢れそうになった。

「ウワサなんてあてにならねぇな。実際会ってさ、菊里ちゃんが瀬織ちゃんのことめちゃくちゃ好きで。それで頑張ってんのがわかったからサ」

遊磨は本当に太陽のような人だ。

影がかかった気持ちを吹き飛ばす爽やかさがある。

褒めてもらうと、今まで歩んだ道は無駄じゃなかったと、涙にうれしさが増す。

一人では不安定だった想い。静芽に支えられ、遊磨に肯定され、怖いものなしだと胸を張った。