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静芽に会いに行こうと離れへ向かう。

御神木に背を預け、目を閉じる静芽を発見して足音をたてないように近づいた。

白銀の髪がキラキラしていると見惚れながら、ジッと整った寝顔を観察する。

(キレイだな……)

頬杖をつきながら、中性的な美しさに嫉妬する。

この美貌に魅了され、触れようと手を伸ばすのは破廉恥だ。

そう思いつつ、近くにいて許される特権は優越感にひたれる。

まっすぐなやさしさに触れると、意識してしまうのは無理もない。

早すぎると思いつつ、私は欲しがりなので頬に触れようとした。

寸前で、静芽のまぶたが上がってしまい、短く悲鳴をあげて尻もちをついてしまうドジはデフォルトかもしれないと、トホホと心で泣いた。

「……菊里? 大丈夫か?」

「うぅ……大丈夫です。お恥ずかしいところを……」

「別に……」

カァッと頬を染め、ためらいがちに手を差しだしてくる。

私は惚けてその手をしばらく見つめ、うれしさにそっと手を重ねた。

(この熱に浮かれる感覚、キライじゃない。でも早い……)

それからあやかし退治のため、瀬織と出る旨を告げた。

刀巫女として行動し、そのサポート役として支えてくれる。

相棒、といってもいいだろうか。

静芽の横顔をチラ見して、胸の高鳴りに目を反らす。

そうして乙女な気持ちになっていると、母屋からハツラツとした声が聞こえてきた。

「きーくりちゃんっ!」
「ひゃっ!?」

遊磨は母屋と離れを繋ぐ縁側から飛び降りると、飛びつくように私の肩に手を回す。

アタフタしていると、静芽が雑に遊磨を引き剥がした。

うざったそうに遊磨を後ろに押しこむが、お調子者の遊磨はまったく気にも止めずに前に出ようとする。

「討伐、一緒に行けて嬉しいぜ! オレに送る力はないからよろしく頼むな!」

「はい。よろしくお願いします」

今まで私はあやかしを送れないことに劣等感を抱いていた。

前向きな遊磨を見ていると、私は私なりに戦えばよかったのだと、凝り固まった価値観がやわらいだ。

どんな形であれ、頼ってもらえるのは嬉しい。
ささやかな幸福に、がんばろうと上を向いた。