「かくりよへ帰れ!!」

ハッと顔をあげると、瀬織の放った矢で複数体のあやかしが消えた。

通常は一矢につき、一体のあやかしをかくりよに送る。

瀬織の巫女としての力は高く、一矢で複数体を倒すことが出来る。

まさに”最強”だ。


”およずれごと、射るが務め。かくりよへ帰れ”

この言霊を発すれば力が集約して、強力な一撃となる。

言わなくても力は宿るが、言霊の力は偉大。

瀬織がつかえば怖いものなしだ。

だからこそ、なおさら悔しかった。

圧倒的に強いからこそ、瀬織の負担は大きくなる。

圧倒的なせいで……と言い換えてもおかしくない。

弓巫女の適性がない私に出来ることは、せいぜいあやかしの足止めだけ。

肝心なところは他の巫女に頼るしかなかった。

「! そこっ!」

茂みの向こう側から禍々しい気配がして、あたりへの警戒を強める。

近くに親玉のあやかしがいるのだろう。

キィキィと鳴く小物のあやかしたちの奇声に混じって、頭上から風を殴る音がした。

「ギャアギャアッ!!」

巨大な鳥の姿をしたあやかしが、小物たちを吹き飛ばして木をなぎ払う。

風が巻き起こり、急ぎ木の影に逃げこんだ。

このままではすぐに巨大鳥によって一帯が丸裸にされるだろう。

いち早く動きを止めなくてはならない。

気配を押さえ込み、あえて言霊を口にして矢を放った。

「ギャッ!」

矢は翼に刺さるだけで、簡単に落とされる。

他の巫女たちも一斉に矢を放つが、巨大鳥はものともせず空に飛びあがって強い風で抵抗をみせた。

人里を襲うほどに邪気まみれなあやかし。

なんとかしてかくりよへ帰したい。

まずは矢を放てる開けた地が必要だと、私は思いきって飛び出すと、風を避けながら囮となった。

「向こうの岩場に追い込んで! あとはあたしがなんとかする!」

私が前に出ると、瀬織はすぐさま活路を見いだし、坂をのぼった先にある岩場を指す。

そこで巨体鳥を射抜く気のようだ。

瀬織の指示に外様巫女たちは動き、私は一心不乱に巨大鳥注意を引こうと走った。

岩場まで追い込むと、ようやく巨大鳥は誘導されたと気づき、怒り狂って翼を大きく開閉する。

羽根が抜けて葉も散るので、視界は悪い。

だが瀬織の立ち位置なら一撃で仕留められる。

風が止まった瞬間が好機。私は道を切り開く覚悟で前に飛びだした。