「なぜですか? それほどのあやかし相手だと足手まといです」

とはいえ、瀬織からすると不満でしかないようだ。

スパッとした切れ味は、具現化すると吐血になるだろう。

瀬織の拒絶は刃のようだ。

一瞬、傷つきはする。
それでも瀬織というだけで甘くなるので傷はすぐに癒えてしまう。

刃にハチミツといった具合だ。

渋い顔をする瀬織に父は首を振り、億劫そうにこめかみをおさえた。

「最近は菊里も討伐がスムーズになったと報告を受けている。なんでもあの天狗が役立っているとか」

チラッと鋭い視線が刺さって肩が浮く。
”天狗”と言われるとどうしても肩が上がり、敏感に反応してしまう、

父が静芽のことを口にする際、声がワントーン低くなるのでなおさらかもしれない。

私が実績を出しはじめたから許しているだけであり、根本的には静芽をよく思っていないようだ。

静芽も父を嫌悪している。

対面したのは一度だけだというのに、静芽はずいぶんと敵意を向けていた。

ピリピリ、ピリピリ。
互いに接点をつくらないよう距離を取っていた。

(静芽さんのおかげで戦えるようになってきた。剣を使っているの、バレてないよね?)

絶対に知られてはいけない。
カギを握っているのは瀬織だと、尻目に顔色をうかがう。

瀬織はわかりやすいくらいに、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。

瀬織は黙ってくれている。

静芽が言った通りだと安堵するとともに、瀬織のそばにいれる喜びは胸がポカポカした。

「沼津家の倅(せがれ)も同行する。討伐は二人と出たいと」

「……あの男が?」

遊磨のニヤッとした顔が脳裏によぎる。

「沼津の当主から文が届いた。しばらく白峰家で修業をさせたいと」

槍巫女筆頭家門の沼津家。遊磨は現当主の弟だ。

三大家門でもっとも勢力が強いのが槍巫女だ。

比較的裁量が大きいこともあり、遊磨の活躍の場が広いのだろう。

当主自身も前線に出るので、現場第一主義といったところだ。

当主は年若い女性ということもあり、柔軟性に優れている。

同じ筆頭家門でも、勢力さがあり父でも無下にはできなかった。