(考えないようにしてたんだけどな……)

チラリと静芽を横目で見れば、同じように静芽もこちらを見ており、恥ずかしくなって背を向ける。

熱くなる頬をおさえてもじもじしていると、遊磨は興ざめしたようで「わかった」とうなずいた。

「振られたけど、好きでいるのは自由だよな!」
「なっ!?」

遊磨は気持ちをすぐに切り替え、振られたこともポジティブにとらえてニンマリしている。

爽やかな宣言をする遊磨に、私は思いがけずにボッと頬が焼けた。

いち早く反応したのは静芽で、年相応の男の子の顔をして遊磨に牙を向く。

「おい、お前。ふざけたことを――」

「オレ、こう見えて一途なのさ。菊里ちゃんを幸せにしてみせる!」

「えっ……えっと……!」

遊磨は静芽の言葉を無視し、声を上乗せする。

静芽はカチンときて唸りだすが、私は視界がグルグルして、何がどうなっているのか認識できずにいた。

何か言わなくては、とパニックになりながら、肺に溜まっていた酸素ごと気持ちを吐きだした。

「私を幸せにするのは瀬織だけですっ! どうせなら私じゃなくて瀬織を幸せにするお手伝いをしてください!」

「「……は?」」

ようやく静芽と遊磨の息があったようで、声をそろえて私に振り返る。

音が重なってゲッと青くなり、二人はそれぞれに頭を悩ませる。

こんな爆弾発言、受け止める方が苦労するというもの。

私もまた羞恥心に火を吹き、その場にしゃがみ込む。

目線が低くなったことで、今まで見えていなかった光景が広がった。

風が琥珀色の髪を撫で、藤色の瞳が冷めた温度に揺れる。

「せ……おり?」

「バカじゃないの」

ドン引きとだと、瀬織はそそくさと離れていく。ショックを受けるのは当然私だ。

「ち、違うの! 待って瀬織!!」

静芽と遊磨の反応なんてどうでもいい。

瀬織に嫌悪されるのは耐えられない。

違わないけど、変に誤解されるのは嫌だと手を伸ばして追いかける。

大慌てばかりな私はやはり肝心なところでおっちょこちょい。

縁側に足を踏み入れようとして、足をぶつけてしまった。

生理的な涙があふれ出すも、瀬織への想いに関しては折れていられないと勢いだけで走り続けた。

その後、必死に説明したが瀬織に相手にもされず……。

ペイッと外に追い出され、プロポーズ話は強制終了した。