何を言われた? と面を食らう。

突然の求婚に理解が追いつかず、ポカンと口を開いて固まってしまう。

反応が遅れると、遊磨は照れくさそうにこめかみを指でかきだした。

「け……けっこ……」

「結婚! オレさぁ、そろそろ結婚しないとまずいかなーと思っててさァ! 菊里ちゃん、かわいいなーって」

「瀬織と間違えていませんか!?」

「間違えてない、間違えてないサ」

見事なまでに思考が追いつかない。

答えを迫られて、舌がまわらずにアタフタするばかり。

サッと受け流せない姿は見苦しかったのだろう。

黙っていた静芽が前に出てきて手刀で遊磨の手を弾く。

遊磨は兎のように軽く後退すると、高揚した気持ちのままに静芽を指した。

「あんた、あやかしか?」
「菊里に近づくな」
「ははーん。わかった。あんた、犬だろ?」

カチン、と遊磨の挑発に静芽は青筋をたてたような気がした。

「犬じゃない。菊里はお前と結婚しない」
「ほーん? 決めるのは菊里ちゃんだけど? 犬じゃねぇってんなら何だって?」

(あ、これはダメだ)

二人がバチバチに火花を散らして睨みあう。

私が間に入ろうとしても隙がない。

遊磨は遊磨でイタズラが過ぎるようで、静芽は手のひらで踊らされていた。

(静芽さん、真面目だから……)

「えっと! ごめんなさい! 結婚は出来ません!」

とにかく私が答えを出さなくては、と焦って頭をさげる。

遊磨はポカンと口を開き、静芽はあくどく笑んでいた。

「ん~と、理由は? オレ、顔はいい方だと思うんだけど」

「いやっ、私がまだ結婚とか考えてなくて! 瀬織が結婚するまでは安心できないと言いますか!」

瀬織の幸せ優先!
先に落ちつくべきは瀬織だ。

私が納得できる相手に出会ってくれるまで、私の人生に結婚の選択肢はない。

「つまりオレは振られたと……」
「……ごめんなさい」

本気か冗談かはわからないが、私なりに誠意をもって返事をした。

遊磨を嫌と言いきるまでには、お互いをまだ知らない。

色めく話は、瀬織のことで不安がなくなるまでは考えたくなかった。