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黄昏時になると、いつものように離れの前で静芽と剣の特訓をはじめる。

木刀を振るのは安定してきたので、次は攻撃の型を身体に叩き込もうと邁進していた。

前向きな気持ちで順調……だったのに、唐突に静芽はまとう空気をピリッとさせる。

ご神木に視線が移り、追いかけるとそこにへらへら笑う傾奇男がいた。

「ヤッホー‼ 眼帯巫女ちゃん!」

飛び石を一つ飛ばしに、嬉々とした様子で傾奇男は距離を詰めてきた。

「あんまり弓は得意じゃないの?」
「きゃっ!」

顔が近づいてニコニコとされたものだから、つい驚いて短い悲鳴をあげてしまう。

静芽で慣れてきたとはいえ、不意打ちには弱い。

傾奇男はまったく悪気がなかったようで、まずいと手を引っ込めて、シュンと落ち込みをみせた。

「ごめんなぁ。驚かせるつもりはなくってよォ」
「いえ……」

「えっと、菊里ちゃんだったよな? 白峰家の娘さんでいいよね?」

まったく人見知りしないのだろう。謝るとすぐに切り替えて、私に陽気な笑顔を向けてくる。

私はおずおずとうなずくも、気後れして話を続けることが出来ない。

「やっぱりなぁ! あの瀬織って子、めちゃくちゃ強いって聞いててさ! 菊里ちゃんと姉妹なんだ!」

私と瀬織の顔立ちは、双子とは思えないほど似ていない。

お互いに眼帯をつけていなければ、誰にも気づかれないだろう。

血縁関係を彷彿させるのはオッドアイだけ。

和やかに笑う彼にはどう見えているのだろう。

槍巫女にも瀬織の名は行き届いているだろうが、私は弓巫女でしかないので、知られていないはず。

実際に無垢の目で見られれば恥ずかしくてたまらなかった。