(沼津家……か)

槍巫女の筆頭家門。
勢力は三大家門でトップ。

弓巫女はかろうじて当主がいるので次点とし、刀巫女は混乱状態だ。

そうなっているのは、刀巫女も弓巫女と動揺に口伝が途切れているから。

前当主が姿をくらませ、そのまま引き継がれることがなかったらしい。

安定しているのは槍巫女だけ。
なんとも情けない話だと、ため息ものだった。

(当主不在だと、刀巫女も勢力が大きく変わるんだろうな)

私が刀巫女であることは、どう影響してしまうのだろう。

今は何が何でも隠し通すしかない。

瀬織が弓巫女の中心に立ち、家門を立て直そうと奮闘している。

そこに「双子の姉が実は刀巫女でした」なんて言い出せば、不穏な空気となる。

下手すれば争いの火種だ。

弓巫女の筆頭家門の血筋から、弓巫女以外が生まれるはずがないと。

裏切りとも捉えかねられないので、私は影から瀬織を支えたいと願っていた。

「あの男、腹立つ」
「静芽さん……!」

玉砂利を踏む音に振り返れば、イライラを前面に出す静芽がいた。

傾奇男が好かないようで、声も一段と低い。

私は静芽の腕に手を添え、首を横に振って顔色をうかがった。

「ごめんなさい。お客様だったみたいで……」
「別に。それはいいんだ」

ならば何をそんな不満げにするのか。

静芽はプイっと顔を反らし、やきもきした様子で元来た道を戻っていく。

まだまだ静芽の気持ちは読めないと、私は首を傾げ、静芽の背を追いかけた。

同時に傾奇男を想像し、静芽との相性を考えてみる。

(静芽さんは生真面目だからなぁ)

傾奇男は初対面でわかるほどに、気さくでじょう舌だ。

相性としては良くないかもしれないと、今後の流れを想像していささか不安を抱く。

静芽には感謝している分、リラックスしてほしいと願うようになった。

むすっとしがちな横顔より、おだやかに微笑んでいる方が魅力的。

とはいえ、不機嫌な顔はどことなく既視感があるので、悪くないと思っていしまう。

心底私は意地が悪いと、反省に浸った。