***

ふもとの住人に話を聞くと、あやかしは白岩山から下りてくるそうだ。

霊山に潜むあやかしとなれば、相当な強さだろう。

警戒体制を維持しながら瀬織を先頭に山に登った。

発展した都市ならば、あやかしは目立って行動しない。

ちょっと離れた田舎では、害のないあやかしをちょこちょこ見かける。

襲いかかるあやかしは巫女が退治することで、このあたりの治安は守られていた。

山は典型的な生息地だが、霊山にあやかしが潜むのは異常だ。

それこそ神聖の高い存在でないと居つくことが出来ないのに何故? と首をかしげても答えはでない。

最後尾についていると、前方から生い茂る草をかきわけて小さなあやかしが飛び出してきた。


「およずれごと、射るが務め! かくりよへ帰れ!」

刀や槍が距離を詰めてあやかしを倒すのに対し、弓は一撃でしとめる、または複数人で囲むことで射る。

一撃で仕留められる実力のあるものは瀬織くらい。

あやかしと戦うたびに、刀巫女や槍巫女と連携ができればいいのにと思い悩む。

弓巫女は遠距離戦が得意なため、互いの得意で戦えば効率もいい。

残念ながら各家門は不仲のため、協力関係を結ぶのはそう簡単な話ではなかった。

(瀬織が当主になれば変わるのかしら)

弓巫女として適性のない私では、白峰家を継ぐことが出来ない。

瀬織は当主を目指しているらしい。

他の巫女たちが噂していたので間接的に知った情報だ。

(将来的に当主になるのは間違いない。まだ当主になれないのは、水弓を継承できていないから? 父上は身を引く気はあるのかしら?)

水弓とは弓巫女に伝わる最強の武器だ。

世代交代の際に受け継がれるらしいが、今はその水弓が行方不明となっている。

先代当主が亡くなったことで、口伝が途切れて継承されなかったそうだ。

父の考えがわからない。

今後、弓巫女をどう導きたいのか。

無能な私に話すことでもないし、父の話に耳を傾けたいとも思わない。

ハッキリ言ってしまえば、私は父が好きではない。

戦うことも知らず、弓巫女の当主の座にしがみつくように存在しているとしか見えないからだ。

(死んでしまえ……なんて。親不孝かな)

わからないことがあって瀬織に聞いてもそっぽを向かれてしまう。

双子なのに瀬織にばかり負担がいく。

無能巫女だと嫌悪するのも無理のないことであった。