「たしかに、沼津家の紋章と署名ね」
「瀬織!」

静芽に正門でおろしてもらうと、男と瀬織の間に立ち、両手を広げて牙を剥く。

「むやみやたらに巫女たちを怯えさせないでください!」

私だって筆頭家門の弓巫女だ。弱くても身内の盾になる気概はある。

「眼帯の巫女ちゃんが二人……」

男は不思議そうに私と瀬織を見比べる。

軍服を自由に着こなし、アッシュの髪をツーブロックに整えるとは、まさに傾奇者。

堅実に生きる巫女たちに、このような身なりの男性は恐ろしくてたまらないだろう。

(なにより! そんなに瀬織を見ないでよっ!)

過剰な愛はすぐさま暴走する。

「いいですか!? 瀬織に指一本でも触れたら許しませんから!」

「ちょっと……」

瀬織のように美しい女人を見れば、大抵の男は惚れてしまう。

実際にあやかし退治に出た際、村人に求婚されたこともある。

これくらいの威嚇は瀬織を守るために必要だ。

(私が納得できる相手じゃないと、瀬織はあげないんだから!)

独りよがりに食ってかかると、瀬織が私の肩を掴んで後ろに押す。

「邪魔よ。アンタが関わっていいことじゃない」
「あうっ……」

バランスを崩して後ろに倒れそうになると、傾奇男がサッと私の腕を掴んだ。

「あっぶねぇ。大丈夫か?」
「あ……。はい、ありがとうござ……」

顔をあげ、ギョッと目を見開く。

(待って!? 顔近っ!)

助けてもらったのでお礼を言おうとしたが、あまりの至近距離に言葉が続かない。

腕を掴んだままじーっと見つめられると、どう対応すべきか頭を悩ませてしまう。

傾奇男は私を見て、瀬織に視線を移し、また戻して眩しい笑顔を浮かべた。