「静芽さんが見てくれているから。私って“そう”なんだなぁとわかってきました。もちろん、瀬織に冷たくされると悲しい。でも私、怒ってないんですよ」

蔑ろにされて自己嫌悪はしても、瀬織に憤りを感じたことはない。

”嫌い”を向けられても私は”好き”を返す。

嫌われ続けて好きでいるのは、異常な愛情だ。

(時々不思議に思う。だけど好きだからいいの)

”好き”という感情は、きっと素晴らしいものだ。

私の場合はそれが行き過ぎてしまうので、静芽のようなブレーキ役がありがたかった。

「瀬織は周りをよく見る子なんです。必要だと判断すれば平気で悪役になる子で」

「それで姉を虐げるのは許されると?」

「巫女として自覚が足りない。責任感の強い瀬織には無責任な姉を置いておくより、外に追い出した方がスッキリするんですよ」

瀬織の厳しさは、弓巫女筆頭家門の正当性だ。

まわりの手本となり、強いリーダーであることを求められるのが筆頭家門の巫女。

そこに”能無し巫女”という醜態をさらすことが、耐えがたい恥と思っているだけ。

私がおとなしく引っ込んでいれば、瀬織にここまで嫌われることもなかったかもしれない。

(なんて……無理よ。私だって強くなりたい。それは瀬織でも譲れないから)

結局、長年の衝突はお互いの頑固さが起因していた。

「瀬織は私の絶対」

嫌われても、あなたが笑っていてくれるならそれでいい。

母の愛した妹を守るのがお姉ちゃんだ。

欲を言えば、いつかあなたが私を姉と認めてくれたら……。

「今、認めてもらえなくても。強くなれば力になれる。今をがんばれば、未来の瀬織が笑ってくれると信じているんです」

叶わぬ願い。
過剰な期待。
全部ひっくるめて、私は瀬織のお姉ちゃんでありたい。

「……とんだ妹バカだな。相手はそう簡単に変わらないぞ」

それでよかった。大バカ者の頑固さを理解できなくても、静芽はどうにかして受け止めようとする。

その寄り添う姿勢が好ましいと、私はやっぱり笑ってしまうのだった。

「ありがとう」

何度でも、この言葉にたどりつく――。

「きゃああああああああああっ‼」

――突如、屋敷の隅々まで悲鳴が響いた。

巫女としての意識が前面に出ると、すぐさま白峰家の門からだと目星をつけ、急いで立ち上がり正門に向かって走り出す。

「きゃっ!?」
「捕まってろ」

静芽が私を抱き上げ、腕に乗せて軽々と空に飛びあがる。

妨げるものがない風をあび、静芽の袖を握りしめた。

上空から正門を見下ろすと、門番の巫女が見知らぬ男性と口論しているのが見えた。