「寄り添ってくれたこと、嬉しかったです」

私の手をすっぽりと覆ってしまう大きな手に、指先を触れさせる。

あまり女らしい距離感にならないよう、力を欲していた巫女の顔をしてはにかんだ。

「ありがとう、静芽さん」

おそらく静芽は感謝に慣れていない。

褒められることに慣れていないとでも言うべきか。

目を細めて笑う姿は幼さが垣間見える。

手を握り返してうなずくと、身を乗り出して私の髪に指を触れさせた。

「髪、きつく縛りすぎじゃないか?」
「変ですか?」
「……いや」

ふいっと目を反らし、静芽は名残惜しそうに髪から手を離す。

「別に。菊里がそれでいいならいい」
「なんですか、それ」

たしかにきつくしすぎたかもしれない。

頭皮が引っ張られるかのような感覚に、私は紐を解くといつもと同じようにくくった。

やはりいつも通りが落ちつく。

うんと大きく伸びをすれば、静芽がやさしい眼差しを向けてきた。

「体調は大丈夫か?」
「はい。静芽さんがいてくれましたから」
「あまり言いたくないが……」

一呼吸おいて静芽が片手をつき、身体を私に向けてくる。

「水をかけて閉じこめるのは見過ごせない。真冬だったらどうなってたか……」

相当腹を立てていたのか、やや強めな口調になっている。

黙っていようか悩んでいたのだろう。

実直なやさしさに、どう返事をすべきか悩んでしまう。

静芽は私の安らぎになりつつある。

長年の瀬織への想いが、私に止まることを許してくれない。

私が瀬織に対して何も文句を言わない。

怒りたいとも思わない。

狂った価値観に、静芽はどこまで見て見ぬふりをするか、許容範囲を思案しているようだ。

瀬織への愛情が判断基準を鈍らせる。どうすれば静芽が腹を立てないでくれるか。

そう考える時点で普通ではないのだろう。余計に適切な言葉が思い浮かばなかった。

だからこれから語るのは、瀬織を特別いとおしく想っている私の歪さだ。