「あ、あの姿で蔵にいたんですか? 私てっきり離れにいるのかと……」
「離れには……いる。あの時はたまたま蔵にいただけで……」

苦し紛れの返答に私は首を傾げ、静芽の袖を掴む。

静芽のことを知りたいのに、どこまで突っ込んで聞いていいのか迷ってしまう。

知りたいなら知りたいと口にすればいいのに、私はかわいらしい尋ね方を出来ずにいる。

ふてぶてしさの迷子だ。

支えてもらっているわりに、静芽の力にはなれていない。

あまりに善意に甘えすぎているのでは、と勝手に落ち込み、忙しなかった。

「……新月」
「えっ?」

一言呟いて、静芽は悩ましそうに目を反らす。

私は反射的に膝をたて、はやる心に静芽の目を見ようと身を乗りだした。

「し、新月が……?」

紅玉に私が映り、直後に甘い上品な香りが鼻をくすぐる。

どんな言葉でも受け止めようと、固唾をのんで待ちの姿勢に入った。

「――俺は新月になるとあの姿になる。喋れないんだ」
(しゃべれ……ない?)

そういえばお犬様は鳴き声をあげなかった。

身を引きしめて答えを待ったわりに、質問から反れたかわいらしい返答だ。

つい目を丸くして静芽を見ていると、静芽は赤っ恥をかいたと言わんばかりに頬を朱に染める。

「他は一般的なあやかしと同じだ」

最も夜が更ける頃、満月であればあやかしは強くなり、新月では弱体化する。

月の満ち欠けがあやかしの強さを示すと言っても過言ではない。

「いっそ笑ってくれ……」

手で顔を覆い、どんよりと影を背負う。

静芽にとっては犬(仮)の姿は屈辱的なようだ。

何もしゃべれないので、私が蔵に投げ入れられたときに無力さを感じたらしい。

(本当にこの人は……)

かわいすぎる告白だ。