機嫌が悪いのは一目瞭然。

目立つ気満々の態度に、止めたくても言葉が出てこない。

まわりへの挑発も兼ねているのだろう。

私は目を固く瞑り、静芽にしがみつくしか出来なかった。

「誰も見てない。下ろすぞ」

パチッと目を開けば、見慣れた畳の部屋。

身体を下ろされ、敷きっぱなしの布団の上でまばたきを繰り返す。

長い指が私の頬を撫でたあと、白銀の髪が横に揺れた。

「静芽さ……!」

一瞬、紅玉と視線が交わるも襖が閉じてしまう。

何も弁解できないまま、静芽は去ってしまった。


誤解されたままでは嫌だと膝をたてるが、すぐに意気消沈しへたり込む。

そうしているうちに、襖の向こう側から風が巻きおこる音がした。

腕を擦り、冷たい肌着に心細くなって息が止まる。

(どうして蔵にいたんだろう? 私、静芽さんは離れにいるからって……)

離れならば人目を避けることが出来る。

私の部屋からも近いので、好きに使ってくれて構わなかった。

そこに静芽がいるんだと安堵さえ感じていた。

なのに今は物足りなさがある。

こんなことを感じてしまうのは自分の貞操観念を疑ってしまう。

(私、欲張りになってる。なんでこんなに……)

さみしくて、さみしくて、たまらないのだろう?

今まで知らなかった静芽の温度に擦り寄りたくなる。

こんなのは女々しくて気味が悪い。

前に進むことができなかった私に、希望をくれた人。

それだけのはずなのに、いつまでも隣で語らいたいと思うのは、女の顔が前面に出すぎである。

ちょっとやさしくされたからとなびくのは単純すぎると、嫌悪感に首を横に振った。

(いつから蔵にいたんだろう。出る時は鍵が開いていたし、探してくれたのかな?)

そこまで考えて、ふわふわの感触が寄り添ってくれたのを思い出す。