蔵の窓から朝日が差し込み、まどろみから目を覚ます。

「まぶた……」

腫れぼったくて目が開きにくい。

目元をこすり、乾きだした小袖を胸に寄せる。

窓からの陽射しがあたたかく、湿っぽさからの晴れやかさに心が安らいだ。

「起きたか」
「ひぁっ!?」

背後から低音の声が突き刺さり、驚いて身体を起こす。

「静芽さん……?」

振り返れば絶賛不機嫌な表情の静芽がいる。

腕を組み、あぐらをかいて私をジロジロと見下ろしていた。

静芽がいつも着ている上衣がないことに気づく。

あせあせと身体を揺らせば私の膝に衣が被さっていた。

布団替わりにかけてくれたのだろう。

「あ、ありがとうございます……」
「ん」

いそいそと上衣を畳んで静芽に返すも、なんとなく決まりが悪い。

手首を縛っていた縄はなく、小袖は半乾きだ。

巫女たちのイタズラならへっちゃらなところ。

現実は瀬織の拒絶。
思い出すと、寒さとの区別がつかない震えがした。

「あの……どうしてここに?」

その問いに静芽は眉をしかめ、細い目を向けてくる。

「お前こそ、なぜこんな場所に」

どうしよう、と考えて瀬織が思い浮かび、私はとっさに口角をあげて笑みを繕った。

「さ……探し物でここに。夜も遅かったのでつい寝てしまって……」

苦し紛れの言いわけで静芽を騙せるはずもなく、「お前バカにしてるのか?」と威圧感満載の目を向けてくる。

誤魔化しが下手すぎると、笑いながらも涙目になってしまう。

こんな調子なので、先に折れてくれたのは静芽だった。

「まぁいい。さっさと出るぞ」
「きゃっ!?」

上衣を腕にかけ、流れる動作で私の脇下に手をまわすと肩に抱きあげてきた。

あやかし討伐でもないので、不意打ちを食らい、恥じらいが強く出てしまう。

「あっ……あの、歩けますから……」
「いいから。このまま」

必死のお願いも虚しく、静芽はサッサと蔵から出て扉を荒々しく閉じる。

わざとらしく玉砂利を蹴飛ばして歩き、ズンズンと母屋に向かっていた。