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翌朝、外様(とざま)巫女を連れて白岩山のふもとに訪れた。

外様巫女とは筆頭家門以外の巫女をさす。

現状、弓巫女は瀬織のカリスマ性で保たれているようなものだ。

「あーぁ、どうせ巫女をやるなら槍巫女の適正がほしかったなぁ」

「弓巫女はこれからよ。実質、全巫女のなかで瀬織さまが一番お強いんだから」

「刀巫女は当主が変わったものね。元当主の親戚かなんだかが継いだとか……」

外様巫女たちがぼやきながら瀬織の後に続く。

弓巫女の適性者が増えないこと、あやかしの出没が増えていること。

体感として巫女たちは不信感を抱く。

私も同じように疑問はあったが、現状、可視化されておらず、体感だけでは説得力に欠ける。

あやかしが増えているのだから手が追いつかなくて当然だと、巫女たちは不満に感じながらもお役目に徹していた。

「あなたたち」
「「キャッ⁉」」

ひそひそ話をする外様巫女たちに瀬織が艶やかに微笑みかける。

「弓巫女はあなたたちが頼りなの。力を貸してちょうだい」
「「は、はいっ!」」

瀬織は外見も非の打ち所がない。

艶やかに微笑めば誰もが見惚れてしまう。

つまり私も例外ではなく、心の中でキャーキャーはしゃいでしまうので中々の重症だ。

私の世界は瀬織を中心に回っており、一喜一憂するのも瀬織が起因する。

家族愛、恋、友情。そんな枠組みにはめこめないし、はめこみたくもない“愛”だ。

「能無し巫女では何の役にも立たないのだから」

それがたとえ、一方通行の想いでも……。

軽蔑のまなざし。
髪と同じ琥珀色のまつ毛が表情に影を作る。

これは私を傷つけるためだけに存在する言葉だ。

大好きな妹が発する言葉は刃物のように鋭くて痛い……はずなのに、求めてやまないのは甘い蜜のせい。

痛い。痛くてたまらない。
だけど諦めるより痛いことはない。

空虚な手のひらを見下ろして、ぐっと握りしめる。

弓以外に握ることは許されない無力な身。

どうすれば瀬織のとなりに並べるのだろう。

堂々とあやかし退治をする自分。
空想に耽ってはもの寂しい気持ちになった。