瀬織を想い、遠くから見守る姿。

まったく嫉妬しなかったわけではない。

それでも私は絶対に口に出さない。

そんなちっぽけな我よりも、瀬織を守りたい気持ちが上回っているから。

ただ、私は瀬織をあいしている。

【お姉ちゃんとして瀬織を守る】

私の生きる指針。
この世界でたった一人の妹。

瀬織が大好きでおかしくなりそうだ。
いや、この感情はすでに歪んでいる。

愛情、依存、憧憬、嫉妬、救い。
親愛、友愛、孤独、温もり。

想いは一つであらわせない。愛を越えた”瀬織”のための感情だから。

「ごめんなさい」

泣きたくないのに。かけられた水にまぎれる熱さに、さらに身を丸くした。



ガサガサ……と、蔵の奥から音がした。

じめっとした蔵だ。何がいても驚きはしない。

瞼をあげてみても、暗闇で何も見えない。

身体にふわふわした感触があたる。

時々ひんやりとした感覚があり、私の匂いを嗅ぐ何かがいると顔をあげた。

「猫……いいえ、犬かな?」

鳴き声をあげないが、スリスリと私の腕に頭を擦りつけてくるので、あいらしい行動に頬がゆるむ。

「なあに? 慰めてくれているの?」

甘くてやさしい香りだ。

瞳は何色だろうか?
どれくらいの大きさだろう?

見えなくてもやさしい目をしている気がした。

今は気持ちの乱れと暗がりに、判断能力は欠けている。

夜は更け、身体は水に濡れて冷えてしまったせいか、すっかり弱気になっていた。

「ごめんね。ちょっとだけ……」

一人では抱えきれない痛み。

ふわふわした毛並みに抱きついた。

目を閉じ、琥珀の髪をなびかせる少女の後ろ姿を思い描く。

(弱くて足でまといのせいだと思っていたけど、それも違うの?)

「ごめんなさい、お母さま……」

今日も瀬織に気持ちは届かない。

超えられない壁を見て、まどろむ世界に落ちた。