(あーぁ。瀬織を怒らせちゃった)
この自己嫌悪はいつまで続くだろう?
私よりもずっと強く、周囲にも尊敬され、父にも一目置かれている最高の妹。
崇高で完ぺきな巫女だ。
妹だと誇りに思う反面、憧れが強すぎて私は自分を卑下することをやめられない。
強くなりたい。妹を守りたい。
口ではそう言いながらも、その強さとは一体どのようなものかわかっていない。
具体性に欠ける上っ面の言葉だ。
たしかにそう思ってるのに、一向に実らないのはどこかであきらめているから?
瀬織の心が少しでもわかればいいのに。
静芽に出会ってようやく答えに近づけた気分だった。
それも所詮は空回りだったのかもしれない。
(あきらめられたら楽だった……)
涙がとまらない。
前髪から落ちる水が、より一層私を情けなくさせる。
これだけ苦しくて悲しいのに、中身のない目標だけで立ち上がる自分が時々おそろしい。
不屈の根性と言えるかわいさであればよかった。
これは執着、瀬織に追いつきたい一心でバカになれる異常者だ。
(どうすればこの想いは捨てられる? 何度だって私は瀬織を見てしまうのに)
このモヤは晴れないまま。
母の遺言もあり、瀬織を守ると強く心に決めたのに。
嫉妬心は口にしない。
大好きな母でさえ、死ぬ間際に気にかけたのは瀬織だった。
(時折、お母さまは鏡を見ては瀬織を呼んでいた)
いつもは布をかけて、大事にしている鏡があった。
それに触ろうとすると母はひどく怒った。
理由を語ろうとしないで、ただ「ダメだ」と、最後は物思いに沈んだ微笑みで私の頭を撫でてくれた。
今、その鏡は父の管理下にある。
どんな鏡だったかも、もうぼんやりとした記憶になった。
私を膝に抱き、母は離れからずっと母屋を見つめていた。



