やはり瀬織だと、縄で縛られた身体を前によじり、顔を見ようとする。

月明かりもない暗闇では表情さえ見えない。

カッカとわざとらしい足音のあと、瀬織は私の胸ぐらをつかんで揺さぶった。

暗くてもわかってしまう。瀬織の血走った瞳が私に向いている。

「能無し巫女なんだから引っ込んでなさいよ。刀なんて握られたらうっとうしい」

「ふ、不愉快な気持ちにさせてごめんね! でも私、あきらめられない! 瀬織を守りたいって想うのは私が決めたことだから! だからがんばりた――」

「そういうところよ」

いつもと異なる強烈な否定。
煮えたぎるような怒りが私の肌を突き刺す。

「大人しくしていればよかったのよ。そうすればあたしは一人で楽だった」

(楽だった?)

そんな悲しいことを言わせる自分が腹立たしい。

私が一人前に戦えれば、一人で背負った方が楽なんて言わせることはなかったのに。

「たくさん迷惑をかけたのはわかってる。だから今、強くなれる自信があるの」

「それが迷惑なのよ!」

激情。

おさまらない瀬織の葛藤が、私の返事はいらないと早口に叫ばれる。

「うざったいのよ! あたし、アンタが大嫌いなの! あやかしなんて連れて、惑わされて巫女失格よ!」

今日はどうしてか、いつも以上に瀬織のトゲが突き刺さる。

瀬織が不愉快な気持ちになる行動をしている自覚はあった。

今日は違うと、受け止め方がわからずに困惑する。

「静芽さんはあやかしの血を引いてるけど、とても優しくて素敵な人だよ! ちゃんと話せば瀬織だって……!」

「どうでもいい! 視界に映るだけでイライラするの!」

瀬織は私の上から立ち退くと、すぐに外様巫女から桶を受け取り、勢いで水をかけてきた。

袖を通り越し、肌着までびしょ濡れになってキモチワルイ。

前髪から落ちる水が私の心を凍てつかせていく。

「そうしていれば少しは頭が冷えるでしょう? 立ち位置を自覚しなさい」

「せ……」

バタン、と乱暴に蔵の扉が閉められる。

施錠される音に私は膝を丸めて目を閉じた。