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白峰家に戻ると、巫女たちが順に泉で身を清めていく。

私の地位は外様巫女より上だが、最後に使用するようにしていた。

誰の目も気にせず、水浴びを出来る方が好ましい。

月のない夜は泉の深さがわからなくなるので、身体の感覚で深いところへ進み、ちょうどいいところまで着くと身を沈めた。


灯籠のあかりがゆらゆらしている。

眼帯で覆った瞳は視力がないに等しいが、生まれたときから片目で生きてきたので生活に支障はない。

瀬織と同じオッドアイは照れくさいが、自分の中で最も特別なものだった。

(結局瀬織は刀巫女のこと、父上に話してなさそう。……信頼関係、かな)

父に知られたらどうなるだろう?
破門にされるのは目に見えている、と考えてほくそ笑む。

同時に私の勝手で、瀬織が咎められるのは嫌だと眉根を寄せた。

家門を離れればいい話かもしれない。それでも私はしがみつく。

瀬織のそばにいたいから。

本当は父を嫌悪することなく、瀬織の隣に立つのが当たり前な強さが欲しかった。

「白峰家……か」

白峰家はやや複雑な状態にある。

先代は父の姉だったらしいが、亡くなってしまい口伝が途切れた。

祖母もとうに亡くなり、詳細は闇の中。

継承されるはずだった”水の弓“の所在も不明なまま……。

「オッドアイは不吉。双子の巫女……。私たちは二人とも生きている」


眼帯で隠した左目を指でなぞり、肩を落とす。

父と母の間に生まれたのは私たちだけ。

瀬織は跡継ぎとして育てられ、母が亡くなったことで確実なものとなった。

私が無能のため、すべての重責が瀬織にのしかかる。

父が後妻を迎えれば、もう少し瀬織の負担も減ったかもしれない。

二人の間に愛があったようには見えなかったので、愛の美談ははじめから期待していなかった。

父のプライドはいまいちわからない。

素晴らしい世継ぎを得たと、人前では自慢するくせに普段は見向きもしない自己愛の強い人。

私は建前上、弓巫女の務めを果たさなくてはならないため、渋々父は私を戦場に出す。

厄介ごとを背負うのはいつも瀬織。

”能無し巫女”と称されるがゆえの、罪悪感に打ちのめされそうになっていた。