「刀巫女になるくらいなら巫女をやめなさい。あやかしに頼るなんて本末転倒なことよ。それこそ母上が悲しむわ」

母によく似た瀬織の言葉は、母本人に「悲しい」と言われている気分だ。

母ならば私の想いを肯定してくれるだろうが、本人がいなければ所詮くちなしだった。

気持ちを落としていると、瀬織はうっとうしいと背を向け、外様巫女たちのもとへ歩きだし、見向きもしないで私に刺しにかかった。

「もう余計なことはしないで。白峰家に、巫女に、あなたは必要ないんだから」

誰にも頼らない孤高の背中。

琥珀色の髪を二つのハーフアップにし、藤色のリボンは高潔な瀬織によく似合う。

今の私は瀬織の心を溶かす言葉を見つけられなかった。


「言いすぎた。すまない」

瀬織が去り、静芽が今にも消え入りそうな声で呟いた。
私は首を横に振り、恥じらいはそのままに背伸びをして静芽の滑らかな頬に触れてみる。

「私もごめんなさい。言ってくれるのはありがたいです。でも……」

それだけでは静芽の気持ちを誤解してしまいそうだから、温もりを添えてほしい。

「念のため聞くが」
「?」

静芽はよく罰が悪そうな顔をする。

そういう時は言葉にしてくれないと伝わらないので、バランスが難しい。

「抱きしめるのは、いいのか? その……仮にも異性であって……」

ポカンと拍子抜けしてしまう。さんざんあやかし退治として密着してきたのに、静芽が恥じらうのは意外だった。

照れくささを隠していた私が鈍感みたいで面を食らう。

なぜ、このタイミングで言うのかと、赤っ恥に対してワナワナ震えた。

やけくそに静芽の胸にグーパンチを食らわす。

「察してください! なんでそんなときだけ迷うんですか!」

「わかるかっ! これでも菊里に嫌がられないよう考えてるんだ!」