藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

――自分を嫌悪するしかない。

静芽が手を伸ばそうとして、視線をおとす。

決まり悪そうに距離を縮め、瀬織を一瞥した後、すぐに私に目を向けた。

「わかった。菊里が誰を想うかも、自由だから。怒鳴って悪かった」
「……はい。怒られるとびっくりしちゃうので、やさしく言ってほしいです」

赤い瞳に情けない顔をした私が映る。

こんな淀みは見られたくないのに、静芽は”正論を正して”私との向き合い方を変えた。

私の勝手さを肯定してくれる異性に涙が零れ落ちる。
ハラハラと。

静芽の着物にしがみつき、声を押し殺して泣いていると、背後から特別いとしい片割れの声がした。

「あたしにはわかんないのよ……」

息と同化しそうな小声。
瀬織は虚ろな目でこちらを見つめてくる。

(私じゃない。静芽さんを見てる……)

いつも瀬織は私を見ようとしないのに、静芽のことは藤色に映すのか。

対等な視点はある種、私に向けられた拒絶に見えた。

「愛情が正しいなんて思わないで。あたしが求めてもいないのに愛情を盾にするならそれはただの押しつけよ」

「押しつけ……」

目の前が真っ暗になる感覚だ。

いや、足元に真っ黒な穴が空いたともいえる。

この愛情は瀬織にとって、重たいものでしかない。

過剰な愛だと自覚はあるが、それを返してほしいとは口にしない。
したりするものか。

愛がかえってくればうれしい。
強くなりたいという願いが叶えばそれで十分なこと。

だから押しつけなんて言わないで。
これだけは私の自由な想いだから。

「押しつけと感じさせたらごめんね。でも許して」

答えを返すことは求めていない。
通じたらうれしいだけ。

弓を手放してでも強くなりたい。
母上に恥じない私になるために。

静芽の袖を掴んだまま、瀬織の目をきちんと見て話す。

隠し事をしたり、言い控えたりはしない。

「恥知らず」

歯がこすれる音と、一息溜め込んでの冷めた声。

太陽が傾きはじめ、これから黄昏に染まって、群青に溶けていくだろう。