静芽にしては苛立ちの強い声だ。

私の言葉を断固として否定する。

圧倒される激情に視界がチカチカし、恐れおののいて砂利を擦ってしまった。

「大切な……。大好きだとあんなにも言ってるくせに、相手から邪険にされて悲しくないはずがないだろう!」
「あ……」

感情の波に支配され、頭が真っ白になる。

顔は熱くなるので、過剰に頬がけいれんした。

返答のない私に静芽は歯を食いしばり、傷ついた顔をしてうつむいてしまう。

「好きな奴にはやさしくされたい。やさしくしたい。……そういうものだろう」

(あぁ、そっかぁ……)

怒っている理由がわかり、熱いものがこみ上げてきた。

静芽はやさしいのではなく、やさしすぎる。

生真面目で、すべてをストレートにぶつけてしまう距離感の下手な人。

決して相手を貶めるものではなく、相手を想っての正論だ。

怒られると傷つくし、怒らないで欲しいのが本音。

だけど私の気持ちを否定するのではなく、報われないことに腹を立てているだけ。

静芽の不器用さを知っているから、余計にやさしさが痛いと胸が詰まった。


「嫌いを投げられて、好きでいるなんて難しいんだよ」
「……だったら私は普通じゃないんです」

正論は悪くない。
ただ、ほんの少し私が歪んでいるだけ。

ひどく驚いた様子の瀬織が視界に入り、少しでも私のことで動揺しているのがうれしいと思ってしまうどす黒さがある。

ちょっとでも、瀬織の心を占める割合が私に傾いてくれたらいいのに。

そんなことを考えてしまうくらいには妹狂いだ。

「自分でも変だと思ってます。気持ちを返してもらえたらうれしい。見返りがほしいと思ったりもする。だけど瀬織がどう思うかは瀬織の自由だから」

私はワガママかもしれない。

静芽の心配も、葛藤も、心を向けてもらえるだけで幸せだ。

(言葉にすると痛いから、抱きしめてほしい。そんな距離を静芽さんに望むのは……ズルいね。そんなの想いの強要だもの。瀬織にも、静芽さんにも、それぞれの想いがあるのだから)

「瀬織ってやさしいの。だから私が受け止めるだけです」