ジャリ……。
風が吹き、砂利を踏む音がした。

静芽の向こう側で、瀬織がテキパキと後始末に奔走している。

何体ものあやかしを倒しながらも、息一つ乱さずに立つ姿は私の心をウットリさせた。

(はああ、素敵。かわいいわぁ)
「瀬織!」

名前を呼ばずにはいられない。

凛とした横顔がこちらに向けば、片割れの藤色が表にでる。

同じ色を左右に持つことが私にとっての喜びで、目が合うと甘いハチミツのようなものを舐めた気分になった。

「あのね、瀬織! 私、ちゃんとあやかし退治できたよ! これからは瀬織の手を……」
「触らないで!」

勢いに瀬織が私の手を振り払う。

つい幼心に瀬織に寄ってしまったと反省し、振り払われた手を見下ろす。

指先に赤い液体。
手が血まみれになっていると、今さら気づいた。

木刀を握りすぎて出来た血豆がやぶれたようだ。

こんな手では瀬織に触れられないと笑って、両手を後ろに引っ込める。

瀬織は眉をひそめ、バカらしいと背を向けた。

「待て」

静芽が棘を含んだ声を投げる。

冷めた目をして瀬織が振り向くと、静芽が詰め寄って挑発的に見下ろしていた。

「お前のために姉が頑張っているのに労いの言葉一つなしか?」
「! 静芽さん!?」

静芽の挑発に瀬織は目を鋭くする。

「あたしは刀を握れなんて言ってない」
「愛情に対しその答えだと?」
「……そうよ」

うんざりとした様子で瀬織は肩を落とす。

私に凍てつく眼差しを向け、わざとらしく舌打ちをした。

瀬織と静芽の両方を不快にさせてしまったと想像し、とっさの自己防衛に唾をのむ。

「し、静芽さん、違うの。私が戦うのはちゃんとしたお姉ちゃんになりたいからで……。悲しくなんてないわ」

「嘘を吐くな!」