幻想的な光景に私ははじめての手柄だと、喜びにはじけて静芽に振り返った。

「静芽さん! ありがとうございます!」

静芽もおだやかに微笑みを返したが、何度見ても慣れない雅な美しさだ。

恥ずかしくなって静芽から目を反らす。

視線の先で瀬織があやかしを退治しきったのが見える。

無事にあやかしを退治しきったと、ホッと息を吐いた。

(よかった。だけどやっぱり、あやかしが増えてきたよね)

筆頭家門は帝都を基準として守る範囲が決まっている。

あやかしは山や森を拠点とし、周辺の過疎化した村を襲うのが醍醐味だ。

帝都を中心とし、囲むようにして筆頭家門が配置されているが、ここ数年であやかしの神出鬼没さは増しており、疑問の声もあがるようになった。

「昔ってこんなにあやかし多かったの?」

「ううん。長いこと弓巫女やっているけど年々増えている気がするのよね」

(他の人たちもそう思っているんだ)

あやかしの出没数に関しては、具体的な数字は出していない。

それでも体感として「増えているのでは?」と巫女たちは違和感を口に出すようになった。

こういった現場での声は、なかなかトップにまで届かない。

つまり当主はのうのうとしているだけであり、現場が見えていないということだ。

瀬織が最前線で戦い現状をわかっている、にも関わらず、いっさい父に現場のことを報告していない。

筆頭家門の巫女として、瀬織は常に気を張っており、すまし顔で対処していた。

私も見習う必要がある。……あるけれど。

(父上なんてどうでもいいわ。私はそのすまし顔を永遠に見つめていられる……)

「菊里」

静芽が手を差しだし、私から剣を受け取る。

その後もジッと私を見下ろしてくるので、にこりと笑って首を傾げた。

「今日は新月だな」
「うん?」

いつも以上に静芽は気難しい顔をしていた。

何かを言いたいのだろうが、視線をさまよわせて言葉を決め兼ねる。

「どうしました?」とこちらからたずねるべきだろうが、察してほしいわけではなさそうなので口をつぐむ。

空を見上げれば夕暮れ色。

太陽は一刻もしないうちに沈むだろう。

静芽と出会ってからもう半月が経過したのだと、感極まるものがあり胸に手をあてた。

「ありがとう。また静芽さんに助けられちゃった」

まだ一人で倒しきれないが、静芽のサポートでかくりよへ送るまでの流れはできた。

弓で遠距離攻撃をしていた時と圧倒的に異なる達成感。

目に見える手ごたえは、沈んでいた私の気持ちに笑顔を咲かせるくらいの余裕を与えた。