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静芽と出会って半月ほど、かろうじて誰にも見られることなく剣の特訓が出来た。

問題は今後のあやかし退治において、他の巫女に言及されることだ。

筆頭家門の巫女が弓以外を握ることは許されない。

そもそも適正のない巫女が筆頭家門にいることがおかしいと、他家に足元をすくわれかねないからだ。

異例の事態は伏せておきたい。
それが白峰家の本音だった。

「およずれごと、射るが務め! かくりよへかえれ!」

瀬織が矢を放つと、複数のあやかしを巻きこんで退治される。

他の巫女を寄せつけない圧倒的な強さ。

剣や槍に比べて攻撃数に制限があるのが弓。

戦い方に工夫が必要だが、瀬織ほどの力があれば前線で身軽に戦えた。

(弓巫女はサポートが基本。複数で囲むのがベター。瀬織は例外だわ)

木の裏側に隠れ、あやかしの動きを狭めていく。

私はかくりよへ送る力がない分、矢を放って誘導する役割を担っていた。

無能を痛感する日々に今こそ別れを告げ、剣を握って戦おう。

他の巫女の目を盗んで走り出し、あやかし目がけて剣を振り下ろした。

「やあっ!!」

スカッ……。
虚しい空振りに私は硬直する。

瀬織を狙ってあやかしが集中しているので、私がターゲットに定めたのは中心から反れたあやかしだ。

静芽に教わったとおりに斬りかかってみたが、爽快なほどに回避されてしまう。

剣の重さに慣れず、もたもたした動きでは相手にもならない。

子どものお遊びみたいな攻防が続いた。

「菊里、右だ!」

何体もあやかしがいる以上、いつまでも一対一でやっていけない。

やがて瀬織たちに歯が立たない弱小のあやかしたちがこちらに目をつけだした。

不利な状況に焦るがつのり、アタフタしていると、ついに見かねた静芽が私の腰を引き寄せ、空高く飛びあがった。

「ひゃっ!?」
「このまま。勢いで振り下ろせ」
「はっ、はい!」

あやかしに斬りかかろうと急降下し、意識的に刀巫女としての言霊を口にして刃を振るった。

「およずれごと、斬るが務め! かくりよへ帰れ!」

斬りつけると蓮の花びらが舞い、渦を巻いてあやかしを飲みこんだ。