藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

大した意味はないだろう。

歩み寄りにひどく悩んでいるだけで、明確な方法を知りたいわけではない。

目を見張る静芽に、私も同じように歩み寄ろうかと考えていたので安堵した。

「そうですね」

お互いに近くにいることに慣れていない。

静芽に抱えられて剣を振った時は必死だった。

あやかしを退治する同じ目的があったからぶっつけ本番で乗り越えたが、これからは違う。

触れる距離が当たり前になる。

私が一人前に戦えるようになるまで、静芽はずっと力を貸してくれるだろう。

根拠はないが、生真面目な姿を見ていると確信に近いものを抱いた。

今は手を取り合って、壁を壊すことからはじめようか――。

「名前を呼んでください」
「名前?」
「菊里、と。あまり呼んでくれる人、いないんです」

たまに自分の名前を忘れそうになるほどに。

私がここにいると実感したいがために、ハチミツのような願いを口にした。

「菊里」

薄い唇がやさしい低音で名前を奏でた。

その響きだけで、日の目を見なかった私はがんばれる気がした。

空に手を伸ばして、掴めなかったものも今なら収まりきらないくらい手に入るだろう。

涙があふれてくるのは、それだけ私が飢えていたから。

「はい。ありがとう、静芽さん」

寄る辺ない想いに対し、胸にあたたかいものが込みあがる。

ずっと一人で想い焦がれてきた。

瀬織への想いに対し、はじめて”私”が存在することに気づく。

誰かに認めてもらわなくては、張り裂けそうなものだった。

想いは本物だったが、しょせんは独りよがり。
足元がぐらついていた。

名前を呼ばれたことで、私は前を向いてもいいと許された気分になれた。

不器用な手つきで涙を拭ってくれる姿に、やさしさを感じずにはいられない。

一方的な私の想いを支えてくれる実直な対応に私は安らぎを知った。

「剣の扱い方、教えてください」

胸をはって、私は強さに突き進む。
静芽は下手くそに口角をあげて微笑んだ。

剣を持つにはまだ早いからと、木刀で素振りをする。

構え方、姿勢、足の踏み出し方。

ゆっくりでもいいからと静芽はこまめに声をかけてくれた。

丁寧な教え方に、私はリラックスして楽しんでいた。