それでも静芽がいてくれるのは心強い。

周りの認識と、私の心は別物だ。

(心配してくれている。とてもうれしい。うれしいけど……)

一つ、静芽の心配には欠けているものがあると、頬をふくらませた。

「父には、貢献度の高い瀬織のこと、もう少し労ってほしいです」

「は?」

「まさに巫女の鏡! あんなにすごい妹を持てて私は幸せ者ですよ!」

私は誇らしい妹を思い浮かべて穴を塞ぐ。

”最低な娘”であっても、私には”最高の妹”がいる。

感謝一つ述べるとするならば、私を瀬織のお姉ちゃんにしてくれて「ありがとう」だけ。

「私が前を向いていられるのは、瀬織が頑張っているからです」

母の遺言がきっかけだったとしても。

「私、欲張りなんです。瀬織にお姉ちゃんって呼んでほしい。ただそれだけですよ」

この想いは誰に命令されているわけじゃない。私の誇りだ。

「ありがとう、静芽さん。頑張れって。静芽さんがそばにいてくれたら頑張れる」

静芽は希望の光。

月に照らされた静芽の美しさは、まるで私の背中を押してくれるようだった。

「……盲目だな」
「え?」
「いや、いいんだ。それがお前のいいところだろうから」

意外と剣だこだらけの手。
固い指先で私の眼帯に触れ、前に流れでた髪を耳に戻す。

不意打ちの至近距離に頬が燃えるように熱くなった。

(静芽さんって天然!? 距離感に悩むわーっ!!)

ドキドキと心臓が騒がしい。

男性に免疫がないだけでなく、美しさにあてられてどう反応すればいいかわからない。

繊細な美しさは月の女神を連想させる。

男性への褒め言葉として適切かは疑問だが、男性らしく大きいな手にはもじもじしてしまうのも当然だ。

(静芽さんはもう少し自分の美しさを理解した方がいいわ!)

免疫がない立場として、やきもきしてしまう。

ほんの少し、イタズラに微笑む姿が眩しい。

無自覚の色気だと、照れ隠しにそっぽを向く。

お腹がソワソワし、恥ずかしさの限界だと静芽を押してそそくさと逃げた。

(もおおぉぉ! 静芽さんに失礼だわ!)

熱くなった頬を両手でおさえ、うぬぼれそうな自分を叱咤する。

(さっきの私、よく平気だったわ。瀬織と静芽さんが並ぶと目が焼けちゃう)

瀬織は母によく似ている。

儚そうに見えて芯の通った美しさだ。

瀬織はそこに孤高のかげりが出来、目を離せなくなる。
誰もが見惚れる姿は、瀬織と静芽は同格。

双子の姉と名乗っても、私はとうてい瀬織に並べる美を持ちあわせていなかった。

丸っこい目におちょぼ口。
不健康に見える青白い肌は、鏡で見るたびに目を反らしたくなる。

盛りに盛って褒めても私は”しおらしい”の枠でおさまるだろう。

一度くらいキレイだと言われてみたい……なんて。
そんな素敵なことを言ってくれる殿方はいないと鼻で笑った。