止めにかかると、バチバチにぶつかっていた赤と藤の瞳が同時に私に向いた。

美しい鋭さに肩がすくんでしまう。

板挟みに影響を受けたのか、現状が変わるかもしれないと恐れを抱いた。

「私、それくらい酷いことを言ってる。ちゃんとわかってます。弓巫女に背く行為」

私の言葉は瀬織には裏切りに聞こえているはず。

そもそも弓巫女の血を引くものが剣を扱えるはずもないのだから、こいつは頭がおかしくなったのでは? と思うのが正常。

バカげたことを言っている一喝するのが、筆頭家門の責務でもあった。

「……納得はできない」

私を映さない藤色の瞳。

瀬織は呆れ果てたのだろう。

背中を向け、曲がり角で姿を消してしまった。

離れるときに、甘く爽やかな香りだけを残して――。

追いかけたくても、嫌われているがゆえの恐れが足を床に縫いつける。

(本当は……)


――弓巫女になりたかった。

瀬織の細い肩にのった重荷を分けてほしかった。

弓巫女の家門に生まれ、強い弓巫女を目指してここまできた。

能無し巫女も、いつかは開花するかもしれない。

光も見えぬ希望を抱いて、瀬織の背中を追いかけた。

――剣なんてほしくなかった。

強くなるには必要だったから、自分の中で必死にかみ砕いて腑に落とした。

弓巫女として強くなれるならそうしたかったよ……と、情けない想いを抱いて手で剣を胸に抱き寄せた。

「お前の妹は誰にも言わない」

静芽が明瞭に、私の繊細な心に斬りこみを入れる。

私の恐怖を理解して、その上でハッキリと言いきるのだろう。

瀬織が好きだからこうなるのは仕方ない。

誰が見ても異常な想いなのだから、あきらめてしまえばいいのに。

二つの気持ちに葛藤する私はきっと、見た目でわかるほどに顔が赤い。

静芽の真っ直ぐな目は、見透かされているようで怖かった。

「家門を裏切ってるのに瀬織が許すはずな……」

「あの妹はお前が目の届かぬ場所に行くことは望まないはず。だから剣のことは言わない。……当主にも」

(あぁ、そっかぁ……)

私はどこにいっても役立たず。

瀬織が望むのは巫女をやめることであり、弓以外を握ってほしいわけではない。

厄介者が巫女を辞めるまで、目を光らせたいだけ……。

瀬織の力になりたいだけなのに、想いが届かない。

自己嫌悪が私を飲みこんでいく。
すがれるのは縁もゆかりもない剣だけだ。

(瀬織のそばにいたい。私だって、それは譲れないから)

涙をぬぐって前を向くしかないんだ。