「その人、なに? ……あやかしよね? でも……」

瀬織が尻目に振り向いて、静芽を指す。

あやかしとして曖昧な気配の静芽は、瀬織にとっても不思議なものらしい。

上から下まで観察し、目を細めて眉間のシワを深くした。

「この人は静芽さん。崖から落ちた私を助けてくれたの」
「……その剣は?」
「あっ! うん、これね!」

急いで私は腕に抱えていた剣を両手で持ち直す。

「この剣があれば戦えたの。あやかしをかくりよへ送ることが出来たんだ」
「は?」

気持ちが浮ついて、私は瀬織の表情を見ることなく早口に語った。

「まだ扱い慣れないけどがんばるね。弓巫女ではいられないけど、瀬織の力には――」

「バカじゃないの!」

ガシャン! と音をたてて手から剣が落ちる。

歯を食いしばり、藤色の瞳がギラギラと私を睨んでいた。

また空気が読めなかったと、私はもの寂しさと動揺に剣を拾えない。

「そこまでしてあんたは巫女に執着するの!? お母さまの形見を持っているくせに、それを捨てるというの!?」

「違うよ! 私はただ強くなりたいだけで!」

「弓巫女でいられないならやめなさい!」

知っている。

これは弓巫女としての矜持だ。

責めとして当然のもの。

怒りを買うことはとっくに慣れているから。

どうか心だけは見て見ぬふりをして……。

「刀巫女なんて……あんたはしょせん能無しなんだか――!」
「それ以上はやめろ」

低音の声にハッと顔をあげる。

静芽が冷ややかな視線を落とし、瀬織の手首を掴んでいる。

挑発的になる瀬織の肩を押し、私の腕を引く。

私たちの間に立たれると、瀬織の顔が見えない。

居ても立ってもいられず、慌てて剣を拾うと静芽の袖を引いた。