眉をひそめる静芽は不機嫌そうでも麗しい。

おそらくしかめっ面はデフォルトであり、実際の機嫌は関係ないのだろう。

「剣のことは話すな」
「えっ?」

足を止めた静芽が首をくいっと傾け、重たい息を吐く。

なぜ、と問いたくてもやわらかい言葉が出てこない。

ここはとりあえず笑っておいた方がいいのではと試みるも、口角が引きつるだけで自虐的になってしまった。

どうしたものかとたじろいで、ゆっくりと静芽が目を反らす。

静芽の向こう側は廊下の曲がり角。
その先からバタバタと足音が近づいてきた。


「! 瀬織!」

瀬織の色白い顔を見て、私の口角は嬉しさにゆるむ。

冷静沈着な瀬織が珍しく肩を上下させ、呼吸を乱している。

私と目が合うや、ぱっちりとした猫目をさらに大きく開いた。

悩ましげに眉根を寄せたあと、間に立つ静芽をジロリと一瞥する。

同じように静芽も振り返って瀬織を凝視した。

「……はっ、そうくるのね」

瀬織はため息を吐き、くるりと元来た道を戻ろうとする。

会話も出来ずに瀬織を見つめるだけはイヤだと走り出し、誰よりも皮の厚い手を掴んだ。

「ごめんね、瀬織! あやかしは退治したって聞いたわ! 私が至らないばっかりに全部任せちゃってごめんね!」

「別に。あんたがいない方があたしは楽なの」

振り返ってもらえない。

そんなことは慣れているが、いつだって瀬織の力になりたいと思っている気持ちは伝えたい。

届くことがなくても、届けることはあきらめない。

「それでもまた瀬織に会えてうれしい」

他の巫女がいたのだから、私に構っていられるはずもない。

岩場から落下したのはあくまで私のヘマ。

瀬織が気負う必要はないと、微笑むことでしか伝え方を見いだせなかった。

静芽に命を救われた。

こうしてまた瀬織に会えたのも、静芽が寄り添ってくれたから。

私の一番大切な想いに、応えてくれた人――。