くわえて肌着でも接することも頭の中から飛んでおり……。

今更ながらに羞恥心を抱いて身体を水に沈めた。

左目の藤色で静芽にうかがいの眼差しを向ける。

「言わないで。私も瀬織も、目が見えないことになっているの」

「別に、誰にも言わない」

ホッと安堵して胸をなでおろす。

静芽は一向に目を合わせようとしなかった。

「俺はあんたにこの剣を握ってほしい」
「どうして……」
「この剣があんたを呼んでいるから。それに……」

いや、と静芽は口をつぐんで首を横に振った。

その場にしゃがみこみ、ようやく私と目を合わせる。

水に浸かった私の手を掴み、重たい剣を手のひらにのせた。

手に馴染む感覚。
一人で持つと身体が火照って、熱さに息を吐く。

――脳裏に瀬織の顔が浮かんだ。

”妹を守ってあげてね”

――残された私にお母さまが託した願い。

「――この剣をとったら私は強くなれる?」

私をがんじがらめにする鎖。この問いに対する答えが鎖を破壊する。

「必ず」

世界の音が消えて、頬を撫でる風に鳥肌が立った。

指を折り、剣を握る。
鞘から刀身を出してみれば、まるで月の鏡みたいだった。

「私、強くなりたい」

妹を守れない情けない姉。

能無し巫女と呼ばれることは平気だった。
なによりも辛かったのは瀬織のとなりに並べないこと。

妹を守れるだけの強いお姉ちゃんになれないこと。

「胸をはって瀬織のお姉ちゃんだって、言えるようになりたい!」

見透かされる。
これはひとりよがりな欲望だ。

誰にバカにされようとも、私は瀬織のために生きているから。

「俺をそばにおけ。あんたが自由に戦えるように。俺が全部、教えてやる」
「自由に……」

堂々とあやかしを倒す。

今まで感じたことのない解放感に、私は剣を胸に抱き寄せた。