(私、あやかしを倒せた。あの剣があれば私は瀬織と……)

――これ以上はダメだ、と泡を吐き出す。

白峰家の巫女が弓以外に手を伸ばそうとするなんて、恥でしかない。

一族に顔向けできないことはしない。

正々堂々と、瀬織を守れるお姉ちゃんになる。
……弓でそれが達成できるか、いつまでも不安に揺れた。


「バカ野郎!!」

グイッ――と、突然腕が引かれ、水面から飛びだす。

唐突な急上昇に驚き、鼻の奥に水が入ってむせてしまった。

目に水が入り込み、大げさに瞬きを繰り返していると、視界に白銀の糸がきらめいた。

「えっ?」
「バカか、お前は! 死ぬ気なのか!?」
「え、ええ!?」
「気配が動いたと思い来てみればこんな……」

顔が近い。

国宝級の美しさが目の前にあり、気が動転して言葉が詰まる。

早口にせまっていた青年だが、ふと我に返ったようでポカンと口を開いて固まった。

視線を落として、ゆっくりと手を引いていく。

硬直した青年の意図をたどろうと視線を追いかける。

(あっ……!)

途端に恥ずかしさを覚え、青年から退いて両手で胸元を隠した。

清めのために水浴びをしていたが、濡れると肌襦袢は透けてしまう。

痴態をさらしてしまったと、青年に顔向けできずに背を向けた。

「ごめんなさいごめんなさい! あのっ……これは!」
「いや、俺こそ悪かった」

お互いに恥ずかしがって目を合わせられない。

尻目に青年に目を向けると、灯籠の明かりに染まった横顔があった。

こうも端正な顔をした人でも、照れて頬を染めると知れば可笑しく見えてしまう。

かわいらしさにクスクスと笑ってしまった。

「……笑うな」
「ふふっ……ごめんなさい」

少し言葉を交わすだけでわかる。

彼は純粋で真っ直ぐな心の持ち主のようだ。

出会ったときの軽蔑する眼差しはもうない。

今は慎重にうかがっているだけで、私への嫌悪を抱いているわけじゃない。

そう理解すると、胸がポカポカして、やさしさに頬がゆるんだ。