藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

(うそ……。こんなのはじめて……!)

「もう一度。かくりよへ送れ」

不安よりも期待が上回る。
私は出来る、その確信があった。

青年の言葉にうなずくと、風のスピードを利用して剣を振り上げる。

勢いの足りない分は青年が風で後押ししてくれた。

「およずれごと、斬るが務め。かくりよへ帰れぇえっ!!」
「ギィエエエエッ!?」

真っ黒な血が吹き出て、雨となり髪を濡らす。

断末魔をあげてあやかしは光る蓮の花にのまれ、あっさりと消えた。

私は肩で呼吸をしながら、頬に付着した黒い地を拭う。

(倒した……。かくりよへ送った?)

興奮そのままに青年に振り返る。

麗しい青年は眉をひそめ、あやかしのいた場所を睨んでいた。

見事なまでの白銀の髪が、炭をかぶったみたいになっている。

ツゥーンとした匂いに、不機嫌となっているため。

私は背伸びをして、汚れてしまった青年の頬に指を滑らせた。

「ありがとうございます」

着物の袖で拭うしかないので、必死に青年の汚れを落とそうとした。

もういい、と青年が突っぱねたのでおずおずと下がり、刀身が出たままの剣を鞘に戻す。

「あの、これ……」

青年に返そうとしたが、受け取る気配がない。

首を傾げて青年の顔を除けば、しかめ面に剣を見下ろしているだけだった。

(ランタン……ない。村、すぐそこにあったんだ)

それでも灯りは心もとない。

その不安は剣を持っていることで強くなった。

(あまり長く持っていたくない)

これを握っていると心臓がドキドキして思い悩んでしまう。

叶わぬ願いに光がさしたと期待する気持ちがソワソワさせてくる。

(私が持っていたらダメ。弓巫女の娘だから……)

私は弓巫女であり、他の武器を握ることは禁じられている。

いずれにせよ刀も槍も握る適性はないはず。

……なかったはずなのに、私は弓ではなく剣であやかしをかくりよに送ってしまった。