藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

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もうすぐ山のふもとまでたどり着く。

ランタンの灯りでよく下りれたと自分を褒めつつ、今夜はふもとの村に泊まらせてもらおうとぼんやり考える。

家に帰れば、瀬織はきっと苦虫を噛み潰したような顔をするだろう。

その顔を想像するだけでも、かわいらしいと頬がゆるむ。

罵られても早く会いたくて、空に浮かぶ満月に向かって駆けた。

「キィッ! キイィッ!」
「! これは……!」

さきほどの巨大鳥とは異なる金切り声が響いた。

視界は悪いが、気配は近い。弓を構えて意識を集中させる。

(どうする? 私だけじゃあやかしは倒せない)

だからと言ってここで逃げれば、あやかしも人里に下りてしまう。

それだけは絶対にダメだと、巫女の矜持で足止めに徹しようと決めた

(見えた!)

「私は弓巫女! この先は行かせない!!」

空に向かって矢を放つ。

さきほどの巨大鳥よりは小さいが、十分禍々しいカラスに似たあやかしだ。

矢を放てば胴体に突き刺さったが、決め手にはならない。

満月を的にすれば、影が浮かんで戦いやすい。
矢の残り本数は少ないため、あやかしの動きを封じることに徹しよう。

頭をフル回転させ、無能な私にできる立ち回りを必死で考えていた。

「キエエエエエエッ!」

(あっ……! ダメだ……!)

いくら考えても手が追いつかない。

加えてここは足場の悪い山道だ。

足の速さには自信があっても、ここでは役に立たない。

このままでは足止めにもならず敗北する。

(瀬織っ――!!)

眼前にまで迫ったあやかしの爪に涙がこぼれた。


――びゅうっ!

目を開くと、新緑の爽やかな香りとともに白銀の髪が揺れる光景が見えた。

一瞬、赤い瞳と視線が交わり、心臓が跳ねた。
あの美しい青年が、あやかしと戦い、圧倒している。

しなやかな身のこなしに目を奪われるが、ハッとして急ぎ弓を構えた。

「およずれごと、射るが務め」

出来る、出来ないじゃない。
今、なんとしてもこのあやかしを止めなくてはならない。

無能だとしても、私は巫女だ――!!

「かくりよへ帰れぇぇえ!!」