「静芽さんのバカ」

好きという気持ちはあるのに、素直に口にすることは難しい。

やけくそに胸に飛び込めば、静芽の鼓動が少しだけ早くなったことに気づく。

緊張が強いのはお互い様だと知り、くすぐったい気持ちなった。

(犬の静芽さんもかわいいのよね。モフモフ……したいなぁ)
「刀巫女、か……」
「え?」
「菊里でよかった。……母が俺にくれた最高の出逢いだ」

たまに静芽は直球すぎる愛を口にする。
不意打ちを食らうと頬がポッと熱くなった。

(ずるい。好きになるよ、こんなの。……好きになってほしい。自信はまだないけど、これから作っていく。好きだけは譲れないもの)

今まで瀬織のことを言われれば、”静芽に理解してほしい””否定しないで””直球の言葉は痛い”と散々わがままを訴えた。

対して、静芽は私の気持ちに寄り添う姿勢をみせ、力を貸してくれた。

納得はできなくても、私の想いをないがしろにしない。
そのやさしさがなによりもうれしかった。

頼りない想いは、静芽が寄り添ってくれたことで勇気に変わった。


――ジャリッ……。

音に振り向けば、母屋から弓を持って歩いてくる瀬織がいた。
玉砂利を荒々しく踏み、ズンズンと近づいてきて、皮の厚い小さな手で私の頬を引っぱった。

「いたたたたたたっ!?」
「何ニヤニヤしてるのよ、バカ」
「せせせ、瀬織!?」

(わ~わ~っ! 見られた! やだ、恥ずかしい! お姉ちゃん、生きていけない!)

恋の恥は調整が難しい。つまり、愛すべき妹に見られるとは生き恥ということだ。