現状、静芽に支えられながらあやかしを斬りつける攻撃が、最も力を発揮できる。

だがそれでは力が足りない。
私の目標はこれからも瀬織に並ぶ強いお姉ちゃんになることだ。

いつまでも静芽に頼りきりではいけない。
あきらめないと、試行錯誤をしているわけだが……。

「あの……静芽さん?」
「ん?」
「触ってる場所、おかしくないですか?」
「いや、おかしくない」

静芽に剣術を教わっているが、以前とあきらかに変わった点がある。

恋人同士になったことで、静芽の甘えん坊スイッチが入ったようで、物理的に距離が近くなった。

(だからって腰をギュッとされるのってどうなのぉ!?)

人に見られたくない。

静芽と想い合うのは好きだが、人に見られると恥ずかしさが上回る。

生真面目な静芽が意外にも平然としているので、負けた気がして悔しくなる。
頬をふくらませ、静芽の胸を突き飛ばすと御神木に避難した。

それを静芽は追いかけ、手を伸ばして私の手首を掴む。

「菊里」

魅入られる。
紅玉の瞳が私を映している。

藤色を表に出した、期待と不安に揺れる私の恥ずかしい顔。

充分すぎる恥じらいに、静芽が艶やかに微笑むものだから限界値を越えて破裂しそうだ。

ギュッと抱きしめてきて、私の頭に頬を寄せる。

耳元に甘い吐息がかかって、胸の高鳴りと火照りに目を固く瞑った。

「少し、このままで」
「は……い……」

静芽と触れあうのは金平糖のように甘いけれど、いつまで経っても落ちつくことが出来ない。

それでも離さないでほしいという乙女な心もあって、ソワソワしながら静芽の背に手を回す。

甘く爽やかな香りが好ましい。

もっと香りに包まれていたくて、もっと距離を詰めたくなる欲に背伸びをする。

幸せの受けとめ方は、思った以上に難しく、悩ましい。

「菊里、好きだ」
「んっ……」

本当に、急に積極的になったとモヤモヤを抱く。
真面目さが強引に変わりつつあると、危機感を抱きながらも執拗な口づけは拒絶できない。

こうも毎日情熱を向けられれば、心臓がいくつあっても足りないと理解してもらいたいものだ。
静芽の求愛行動をすんなり受け止めるには、私はまだまだうぶい。

恋愛の経験はゼロ。
全力瀬織愛に生きてきた私には難題ものだった。