業苦に苛まれる激しい絶叫をあげ、だんだんと声が遠ざかっていく。

ゴオオォォンと、除夜の鐘をつくような音が響き、強烈な熱さと極寒は一瞬で消えた。

残った熱と寒さが混じりあい、肌に触れる空気はじめっとしている。

目を開くことが出来ないまま、私たちはお互いの温もりだけで生きていると実感を得ていた。

(さようなら、父上。私はきっと、薄情な娘でした)

涙はにじむけれど、後悔はない。

一度たりとも父として見なかった。

ダイキライになりたくなかった、ダイキライなままの人。

別れだと理解しても、私は手を伸ばさない。
この手は大事な人にしか向かない、頑固なものだから。

未来は希望に満ち溢れていると信じて、これまでの苦しさに別れを告げた。

――チリッ……チリチリ……。

「キャッ!?」

瀬織と繋いだ左手。
小指にハマる珊瑚の指輪が熱くなった。

まだ目を開くわけにはいかない。
心配する瀬織に向けて私は大声で「大丈夫」と伝えた。

この指輪は静芽の父が残したもの。
焦げる心は、私を傷つけることはない。
きっとこれは心残りだろうと、私は静芽の父を想って涙した。


「それでは戻りましょうか」
「「えっ……」」

水龍がパンと手のひらを叩くと同時に、私たちの身体は下からの風に押されて上昇をはじめる。

お腹を圧迫されるほどの強風に、呼吸ができない。

叫ぶ以前に、それは不可能だと気が遠のきそうな渦のなかで目を回した。

「目、開けていいよっ!」

風龍の声におそるおそる目を開く。

ずっと目を閉じていた影響で、目を開いても視界はぼやけて馴染むのに時間を要した。

ようやくここはかくりよの最上部だと理解すると、目の前に雲に乗った風龍が現れた。

「あ……と、さっきのって……」
「満足されましたか?」

風龍のとなりに並んだ水龍の問いに、私と瀬織は目を合わせて首を横に振る。

「満足、とは違います。悲しいのか、苦しいのかもあたしには答えが出せない。……見たくもない。見なくてよかったです」

(愛情を感じなくても、瀬織にとっては父親だったのかな?)

私には父でなかった。
瀬織は良い気持ちではなくても、父を父と認識していた。

審判が下されるのを感じて、罪悪感をあおられるのも無理はない。

その憂いた想いも、瀬織だけに背負わせはしない。

瀬織のお姉ちゃんとして、ともに抱えていこうと決めていた。