弓巫女は終わる。
終わるはずだった。

(私と瀬織が生まれたんだ。刀巫女の私と、弓巫女の瀬織。途絶えるはずだった力を瀬織は持っていた。それも群を抜いて強い巫女として)

父は相当驚いたのだろう。
だから母を離れに追いやったままにしたのかもしれない。

いずれにせよ、父は劣等感と傲慢さから手を血に染めた。

同情はすれど、あまりに犠牲が多すぎて救いようがない。

似たような感情を抱いたことがあるからこそ、私は父に対して煮えきらぬ腹立たしさを抱いた。

「弱虫っ! 父上はただの弱虫よ!!」
「菊里!?」

姿を見ることの出来ない父に向かって叫ぶ。
それに驚いた瀬織が私の手を引き、後ろに追いやって盾になろうとする。
それでも私は吠え続けた。

「能力がないからって何よ! 悔しかったんなら戦えばよかったじゃない!!」

この叫びが父に届いているかわからない。

言わずにはいられない、私が味わってきた屈辱と、あきらめなかった心を――。

「あんたには信念がなかっただけよ! 無能だと嘆いて何もしなかった! 弱虫! 何もしないで欲しいものが手に入るなんて思うな!」
「菊里……」

消え入りそうな声で瀬織が私を呼ぶ。
汗ばむ瀬織の手を、私は硬く握りしめた。

「道はあったはずよ……。出来たことはたくさんあったはずよ。何もしなかったのに、何も得られなかったと腹をたてるのは、あんたが可能性をもちながらもそれに手を伸ばさなかったから。悔しさはわかっても、あきらめた心はわからないわ!」

目を閉じているのに、ボロボロと涙が溢れて目尻からこぼれていく。
鼻水が垂れそうになり、鼻をすすっては唇のしょっぱさに口角を横に引っ張った。

「もういい……。ごめんなさい。あたし、菊里をたくさん傷つけた」

瀬織の謝罪に私は首を横に振り、気配をたどって瀬織の肩に寄りかかる。

「私には瀬織がいた。だからあきらめなかった。瀬織はね、私の生きる希望だよ」

傷ついてもよかった。それ以上に瀬織がいとおしかったから。
お姉ちゃんが妹を守るんだって決意が、私を生かしてくれた。