どこからか、声が聞こえる。
空間の広さはわからないが、まわりの音は消え、声だけが鮮明に波紋していた。

(父上……!)

これは父・道頼の声だ。
向こう側に父がいるのだろうか?

気になっても私たちは見ることが出来ない。

見えないが、なんとなく父が焦燥感に振り回され、あたりを見回している。

やがて苛立ちは外側に向き、現状をうみだした原因に吠えだした。

「なんだ!?」

驚いた父の一声。
何か圧迫感のあるものが現れたようだ。

真っ暗だったまぶたが、赤黒い光を得て黒い影を走らせる。

「姉上。それに鈴里……」

耳に馴染むようになった名前にハッとし目を開けそうになる、が、ぐっとこらえて、唇を丸め込む。

「相良(さがら)!?」

右隣りから息を吞む音がした。
静芽がひどく動揺している。
名前は聞いていなかったが、“相良(さがら)”とは静芽の父の名かもしれない。

決して見てはいけない。
だけどそこには私たちの会いたかった人たちがいると思うと、涙があふれだし、胸が詰まる想いだった。

「な、なんだお前たちは……。お前たちがこんな場所に連れてきたのか!?」

私たちの前では無口で、内面を見せることのなかった父。
こうして荒ぶる声を聞くと、執着にまみれた人だと実感する。

「何か言えよ! お、俺を恨んでるとでも言いたいのか!?」

確信部に触れた。
私は耳を澄ませ、父の言葉を一言一句聞き取ろうと前のめりになる。

瀬織も同じようで、汗ばんだ手を握りなおし、深呼吸で冷静になろうとしているのがわかった。

「はっ……! お前たちは知らないだろうな! どれだけ俺が惨めな気持ちだったか!!」

巫女として戦えない。
無能だと誰からも期待されない日々。

その痛みは私がよく知っている。
暴力に走ろうと思ったことはない。
惨めになるとは、鈴里と相良が影響していると思われるが、何がそこまで父を黒く染めてしまったのか……。