「ここはかくりよ。あやかしが住まう場所です」

水龍がガイド役となり、かくりよの町並みをさして微笑む。

よく見れば猫又や一つ目鬼といったあやかしが人間となんら変わりない生活を送っている。

私たちが退治してきたあやかしとは異なり、温厚そうな者たちだ。

もっと殺伐としたイメージを持っていた。

かくりよの定義は思っているのと違うかもしれない、と疑問に思ってると、雲に乗ってプカプカ浮かぶ風龍が肘をつきながら下を指して悪ガキの顔をする。

「かくりよは八つの層があるの。ここは一番上なんだよ! 悪いことをしたらどんどん落ちていく。それは人間も同じで、悪いことをしたら反省しなくちゃいけないのっ!」

となれば、今見えているあやかしたちは善良ということ。
むしろ現世よりも平和な世界だと、安堵に似た感覚に胸がムズムズした。

「龍神さまたちは普段はどちらに?」

瀬織がたずねると、あいまいに微笑まれるだけで答えを得られなかった。

「俺の父はなぜ、かくりよでなく現世に?」

静芽は複雑な心境のまま、眉をひそめて水龍と風龍を交互に見る。
どちらが答えるか、と二人の龍は互いに見合い、説明上手な水龍が答えることとなった。

「現世にいる役割を持つあやかしもいます。あなたのお父上、天狗はあやかしであり、神聖な存在。はじめから現世に生まれ、自然に紛れて暮らしてきた者です」

水龍の発言に、父・頼道の罪が合致した。

神聖な天狗を殺害する。
自然を冒涜したのと同意。
父の手がいつから汚れたかはわからないが、決定的に血に染まったのは静芽の父を殺したときだと判明した。

切なく苦笑する静芽に胸が痛む。
静芽は天狗と人間の間に生まれた。人間に近くても神聖な存在。

父・道頼を憎く思う心と、天狗としての立場が嚙み合わない。

本当はその手で復讐を果たしたかったのかもしれない。
そう思うと悲しくて辛くて、私は涙ぐんで静芽の手を強く握るしかできなかった。