藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

お礼言わなくては、と声を出そうとして青年が先に口を開く。

「その手が剣を握ったことは?」

唐突な問いに目を丸くし、首を横に振った。

「いえ、ありませんが……」
「そうか」

質問したわりにあっさりと引く。

何だったのかと訝しげに青年を目で追っていると、青年はさっさと石をまたいで洞穴に入ろうとする。

重力なんてないように軽く飛ぶ姿はまるで鳥のよう。

白く繊細な美しさだが、腰にさげられた黒い鞘の剣だけ歪に見えた。

(って、違うでしょ!)

青年の美しさは置いておき、助けられた身なのだからすべきことがあるだろうと、自身を叱咤した。

「あの! 助けてくれてありがとうございます!」

青年が私に良い感情を持たないのは仕方のないこと。

そもそもあやかしと人間が相容れるはずもない。

あやかしをかくりよへ送る巫女のことは苦手なはず。

あやかしにしては、澄んだ空気をまとう……と気にはなるも、これ以上は深追いするのはやめようと背を向け、場を去った。

***

滝の音から離れ、ランタンの灯りを頼りに山を下りていく。

急いで下りなくては真っ暗になってしまう。

空は明るさを保ちながらも、月が浮く程度には夜が近い。

(なんだか……右目が変)

眼帯で覆い隠す右目が熱い。
まるで心臓になったみたいだ。

木々の隙間から見える色素の薄い月、まん丸さにホッと息を吐く。


どうせこんな山の中なのだから誰に見られる心配もない。

眼帯をつけっぱなしでは蒸れて気持ち悪いと、後頭部に手を回して紐を解いた。

金色の瞳が表に出ているはず。
何度か瞬きをして視界を馴染ませた。