滝の音、空が開けた空間にたどり着く。

滝つぼ石を渡れば滝の裏側に道が続いていた。

静芽とはここで出会ったが、可能性があるのはこの先。洞穴の向こう側だ。

「ここに鈴里さんはよく連れて来てくれた。たぶん、このあたりに狭間があるんだろうが、俺にはわからない」

入ることが出来るのは巫女と限られているのかもしれない。

静芽がここによくいたとしても、狭間を知らないとなれば道が閉ざされていたと考えるのが妥当。

私にしては珍しく、小さな脳をフル回転させて道を探る。

その間に瀬織が遊磨から降り、滝つぼの前にしゃがんで手のひらで水をすくっていた。

「キレイな水ね。ここにはあやかしも近づかないでしょう」

「山にあやかしは出るが、たしかにここまでめったに来ない」

「そういえばあやかし、戦ったわね……。菊里が死んでしまうかと思って……」

あやかしの攻撃に追いつめられ、私は崖から転落した。
静芽がいなければ確実に死んでいただろう。

「あの時はごめんなさい」

瀬織の寄る辺なさそうな謝罪に、私は急いで瀬織に手をのばす。

「いいの。瀬織の立場なら、当然の決断よ。他の巫女たちの安全が優先!」
「……あなたは本当にあたしを責めないのね」

ほんの少し、切ない微笑みに胸が痛くなる。

瀬織は強くなろうとして、無理やり自分を捻じ曲げた。

力を奪った罪悪感。
筆頭家門の立ち位置。
大罪を償い、弓巫女を再興させるために、強くなるしかなかった。

瀬織が刃のように鋭いのは、ガラスの心を隠すため。それも含めて瀬織が大好きだ。

私にとって瀬織は、ハチミツみたいな存在で、飽きることのない甘さだった。

「私、行ってみます」

くるっと振り返り、静芽から預けていた剣を受け取る。
それを両手で抱き、滝つぼ石を渡って滝の裏側で足を止めた。

「行ってみないと何もわからないから! 鈴里さまがここに静芽さんを連れてきた! それを信じてみることにする!」

「菊里!!」

瀬織が同じように滝つぼ石を越え、滝の裏側に出て私と向き合う。

「あたしも行く。抱えるものはいっしょよ」

凛とした顔に、私は安らぎを知る。

(やっぱり、好きだなぁ)

瀬織がいれば怖いものはない。
だって私は瀬織への愛情で満たされているから。

頬を撫でる水気を含んだ風が心地よい。

洞穴に入るとさすがに暗かった。
目を細めてあたりを見渡せば、置きっぱなしの照明器具がある。

おそらく静芽が残したものだ。
湿ってないか確認し、ランタンに火をともす。

小さな光を頼りに洞穴の奥へ進んだ。

探るように壁に手をつきながら進んでいくと、前方から光がさしこみ、足元を照らす。

「これ、静芽が気づかなかったのよね?」
「うん……。巫女にしか開かない道なのかも」

風が横切ると鳥肌がたち、剣を握る手が汗ばんだ。

静芽から受け取ったときに見た刀身の輝きが脳裏をよぎる。

短い時間でいろんなことが起きたと、日々の記憶を思い返した。