藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

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白岩山のふもとに到着すると、つい最近のことのはずが懐かしさを感じる。

不思議な感覚に静芽の後に続く。

なだらかな道を静芽が知っていたので、思うよりは負担が少ない。

とはいえ、山を登るのはなかなか大変で、だんだんと会話はなくなった。

静芽は山慣れしており、遊磨は”体力バカ”だ。

戦いのときと登山での体力はまったくの別物。

ここ最近の疲れもあいまって、瀬織の顔色はあまり良くなかった。

戦闘で傷ついた身体を思い出し、私は静芽の袖を引っぱり、振り向かせる。

「静芽さん。瀬織を抱えることって出来ますか?」

静芽が目を丸くし、瀬織をチラ見する。

「バカッ! なに言ってるの!?」

顔を赤らめた瀬織が足を止め、両手を前に突きだす。

藤色がうろたえるのを見て、私はキュンとときめきつつ、瀬織のためにできることは何でもしたいと静芽に懇願した。

「お願いします。瀬織、強がっちゃうんで」
「バカなの!? あなた何を……!」
「わかった」

静芽が瀬織の前まで歩み寄り、しゃがみこんで背を向ける。

「ほら。背に乗れ」
「なっ……いや……」
「あー! 犬っころずりぃぞ! オレが瀬織ちゃんをおんぶする!」

「あ、あなたまで何を言ってるの!? あたしは平気よ!」
「菊里の頼みだ。俺が嫌ならクソ猿でもいい。どっちか選べ」

静芽がぐいぐいと迫るので、瀬織はその場にしゃがみ込んで顔を隠す。

「遊磨で」
「え、いいの? オレでいいの⁉ 瀬織ちゃん!」

瀬織はやけくそになってうなずき、遊磨を手招きする。

「静芽は菊里の恋人なんだから! もう少し考えなさいよ!」

ワナワナと震える瀬織。怒っているようだが、なぜ怒るのかいまいちピンとこない。

(恋人……だからなんだろう?)

「菊里の頼みだ。聞いて当然だろう。それにお前、妹だろ? 俺が雑に扱うと菊里が怒るんだ。わかるだろ?」

なぜ私が怒る前提なのだろう。事実だから何も言うことはないが。

瀬織は大げさにため息を吐くと、それ以上は言わぬと首を横に振った。

「瀬織ちゃん。オレは犬には慣れねぇけど、お兄様となら呼ばれたいぜ」
「バカなの?」

遊磨の軽口に瀬織はそっぽを向き、不本意そうに遊磨の背に負われる。

やはり相当疲れがたまっていたようで、動きだすや瀬織は安堵の息をついていた。

がんばりすぎる傾向があるから、私はお姉ちゃんとして見守ろう。

そう意気込んで私も山道を進んだ。