「瀬織! なんでも言って!」
「……うざ」

大きく出たものの、愛は破れる。

ガーンと鍵盤を叩きつけた音の後、ほろほろと涙とともに私の気合いは流れていった。

そんな私を無視して瀬織は静芽の隣に並ぶ。

「静芽って何歳なの?」

静芽に向けた問いに私はハッと顔をあげる。

(瀬織が静芽さんを意識してる! お兄さんだものね! なんて素敵な兄妹なの!)

「十九歳だが」

(あぁ~! 静芽さん、十九歳だったのね! ごめんなさい、知らなかったわ!)

浮かれるばかりの私に対し、二人はいたって真面目に会話を続けていた。

「先代当主が亡くなったの、だいたいそれくらい前。父のお姉さんよ。急に亡くなって、父が当主の座に就いたの」

父・道頼が犯した罪は三つ。

一つは天狗であり静芽の父を殺害したこと。
二つ目は先代当主を亡き者にし、口伝を途切れさせたこと。

三つ目は瀬織に必要のない苦労をさせた大変許しがたい罪のなかの罪だ!

それは水龍が激怒するのも無理はない。


ならば風龍は怒っていないのだろうか?

罪があるとすれば、口伝を途切れさせたこと。
それは巫女の血脈を閉ざすほどの大罪に値するのか。

その場合、罪人は鈴里ということになるが……。

(それも知らないとね……)

天野家にいたとして、下手をすれば傀儡扱いだ。

気をつけるべきことは多い。

「私、鈴里さまと静芽さんに守ってもらってたんだね」

喜びを呟いて、静芽のとなりに駆け寄ると袖をつかむ。

やさしい想い、誰かを想う心。

素敵な想いを継いで静芽がいると思うと、なんて素敵なことかと頬がゆるんだ。

「……はぁぁ、失恋の痛みが身に染みるぜ」

背後で遊磨が空を仰いで嘆きだす。

それに静芽が振り向いて、鼻を高くして笑った。

「ざまぁみろ」

「……お前、ほんっと性格わりぃよな! さっさと振られろ、犬っころ!」

(あーぁ……)

またはじまった、と二人からススッと離れる。

瀬織も争いに巻き込まれたくないようで、顔面を青くしながらスーッと引いていく私と瀬織が隣に並ぶと、今までの憂いを吹き飛ばすように笑いあった。