「お母さまの分まで私が瀬織を大事にするよ。ゆっくりでも、姉妹として」

「本当に……あなたはバカよ。救いようのないくらい、バカな姉だわ」

「――うん。大好き、瀬織」

瀬織が泣いていると涙を拭いたくなってしまう。

だけど今は、それを瀬織が求めていないことがわかったから。

私はこの手を離さないと月に祈るだけだった。

「あたしたちには二人、お母さまがいるわ」

「うん」

「静芽に鈴里さまのこと、たくさん聞けたらいいわね」

「……っうん!」

私を生んでくれたもう一人の母。

静芽を育てた強く、やさしい人。

幼い静芽から鈴里さまを奪ってしまったかもしれない。

孤独に生きてきた静芽を思うと胸が痛くなった。

「静芽なら大丈夫よ。あたしのお兄ちゃんなんだから」

言葉になると、瀬織と静芽の繋がりがしっくりと腑に落ちる。

ある意味で、私が静芽を好きになるのも当然だった。

瀬織との違いは愛の形だけ。

「瀬織は好きな人いないの?」

「バカ。今それを聞くの?」

「だって……。瀬織のことは何でも気になるもの」

「いないわよ。でもいつかは……誰かを好きになれたらいいわね」

まるで誰も好きにならないみたいな言い方だ。

必死に生きてきた瀬織に恋愛は遠いものなのだろう。

瀬織にとって、結婚は巫女の血を子々孫々に残すこと。

当主としての義務ととらえている気がした。

瀬織が安心できる人と出会えたらいい。

だけどその時は少し妬いてしまうかもしれない。
そんなことを考えながら、うつらうつらと目を閉じた。

「瀬織は……幸せになる……。私が……る……の……」
口が回らない。意識はあるのに落ちていく感覚には逆らえない。

「おやすみ、菊里」

ただひとつ、繋いだ手のぬくもりがやさしくて。私は子どもになった甘さに眠った。