「お祖母様は全く笑わない人で。子どもながらにそれが怖かった。厳しくされたから、今あたしは最強と呼んでもらえるくらいになったけど」

「お祖母様が嫌いだった?」

その問いに衣擦れの音がした。

どちらの反応なのか見えなかったが、追及する気はなかった。

「あなたはお母さまに大切にされていた。あたしは定期的に対面を許されたときだけ、お母さまと話せたの」

母はあまり母屋のことは話さなかった。

瀬織については双子の妹だと何度も聞いており、優秀で自分とは真逆の子だと思っていた。

瀬織のことを語るときの母は、やさしい目をしていた。

だんだんとその気持ちが移って、話したこともない妹が愛しくなった。

母が亡くなり、瀬織との対面が許されて、同じ藤色の瞳に私が映って興奮した。

その分、余計に”能無し巫女”と拒絶され、悲しくて悲しくてたまらなかった。

「お母さまと一緒にいられるあなたが羨ましかった」

衣擦れと一緒に鼻をすする音がした。

暗いからどんな風に泣いているのかわからない。

もどかしさに私は一気に距離を詰め、布団の中で瀬織の手を見つけて握りしめた。

「たくさん頑張ってくれてありがとう。私は瀬織がいたから生きてこられた」

「何を言って……」

「私にとって家族はお母さまと瀬織だけだったもの。能無し巫女と蔑まれるようになってからは、瀬織しかいなかった」

「あなたを追い出すために、巫女たちをあおったのはあたしよ?」

「それでも。お母さまから瀬織のことを聞いてきたから。ずっと私は瀬織に恋してたの」

もしかすると、母の想いが私に移っていたのかもしれない。

母は死の間際、心残りとして瀬織を思い浮かべていた。

母に想いを託され、世界は瀬織で彩られた。

恋愛という括りではない。
家族愛とも違う。

依存と言われても仕方のないくらい、瀬織は私の特別だった。