深い夜のなか、まだ興奮状態でなかなか眠りにつけない。

暗い部屋で、見えもしない天井を眺めていた。

「眠れないの?」

大きめのダブルベッドで瀬織と並んで横になっていた。

それからどれくらい時間が経ったのだろう。

感覚のないまま、私は身体を瀬織に向けた。

「うん。瀬織も眠れないんだね」

「そうね。寝ようと思ってもなかなか難しいわ」

「そっか」

いつも以上に気を張って、集中力を使い疲れきっているはずなのに。

どうしてか、まだ血が騒いでいる。

明日も早いことはわかっているのに、私も瀬織も眠り方を忘れていた。

「お母さまと一緒にいて、あなたは幸せだった?」

瀬織から暗闇に溶け込む呟きが届く。

シーツを指先で丸め、湿った息を吐いた。

「幸せだったよ。お母さまはたくさん愛情をそそいでくれた」

「そう……」

消え入りそうな声に、私は身体を動かして瀬織との距離を詰める。

手には触れない距離で、だけど息づかいは聞こえる間隔。

こうして同じ部屋で、布団に入った状態で会話をするのははじめてだ。

不思議な感覚に浮ついて、眠いのか眠くないのかわからなくなる。

「あたしね、ずっとあなたが羨ましかった」

思いがけない発言に指がピクッと跳ねた。

わずかな布団の膨らみと、どことなく温かい気配に瀬織を感じ取る。

「あたしは産まれてすぐ、父側で育てられたわ。その頃はまだお祖母様も生きていた。すぐに亡くなってしまったけど」

ずいぶんと焦っていた人だった、と瀬織は苦笑いをした。

「厳しい指導を受けた。たぶん、弓巫女の血を途絶えさせないよう必死だったのね」

私の記憶に祖母はほとんどない。

瀬織の指導者になっていることは知っていたが、能無しの私に興味がなかったようで、会話をすることもなかった。

冷たく見下ろす目。
筆頭家門から無能が生まれたことが腹立たしかったのだろう。

祖母は父が大罪人だと知っていたのかもしれない。

……それももう、故人となっては聞けないけれども。