藤に隠すは蜜の刃 〜オッドアイの無能巫女は不器用な天狗に支えられながら妹を溺愛する〜

声と気配を同時に察知し、振り返るよりも先に右の手首を掴まれた。

右側は眼帯のため、どうしても反応が一歩遅れてしまう。
振り返れば紅玉の瞳がまっすぐに私を映していた。

ガラス玉に切り抜かれたかのように、私の輪郭がランタンの灯りに浮かんでいる。

「お前、何なんだ?」
「えっ?」
「なぜ弓を握っている」

彼には”弓巫女”という認識がない。
ならば答えるべきは”巫女について”だ。

「あやかし退治です。私は巫女で、その務めを担うもの……」

そこまで口にして言葉が止まった。

かくりよへ送るべきあやかしは”人に害を成すか”で決まる。

そのため邪気のないあやかしに縁がなく、気配を読み取るのに時間がかかってしまった。

「あなた、あやかしなの?」

サァーッと風が吹く。

滝つぼの水が波になって奥に広がった。

木々から落ちた葉が風にのり、白い泡立つ場所に集まっていく。

私は目の前のあやかしをどう見ればよいかわからなくなり、身動きがとれなかった。

人に害する気配はないが、彼からは私への嫌悪が見てとれる。

とっさに足を引いて定位置にある弓を手に取ろうとする……が弓はなかった。

(ない!? どうして……)

崖から落ちた時に手放してしまったのか。
あれは大切な母の形見であり、私が全うに戦うために必要なものだ。

(どうしよう。あれがないと私……)

頭が縄で締めつけられたかのように、鈍い痛みに眉をひそめる。

泣きたい気持ちをこらえ、ぐっと唇を丸め「冷静になれ」と自分に訴えた。

それでも簡単に焦りは消えない。

青年はしばらく黙っていたが、やがて呆れたと言わんばかりのため息を吐く。

手のひらから風を巻き起こすと、母の形見と数本の矢が現れた。

鮮やかな技に目を見張り、大事なものが返ってきた動揺に顔をあげる。

青年は雑に弓と矢を私に押しつけると、肩を落として紅玉の瞳を向けてきた。