絶対に近づきたくない、とメアは舌を突き出す。
私はメアの態度に答えをみて、小走りにメアの前に寄り、おそるおそる問いかけた。

「それは白岩山ですか?」

問いにメアは悔しそうに唇に縦シワを作った。

十分答えたと、そっぽを向きその場であぐらをかいた。

見た目は美しい女神なのに、あぐらをかくと雄々しさが目立つのは何故だ、と美を観察する分には楽しめた。

「ありがとうございます」

欲しい答えは得た。
私たちが向かうべき場所は“白岩山”だと確信をもつ。

「もういい!? アタシ帰りたい! この子返すからいいでしょ!?」
「……もう身体を乗っ取らないか?」
「とらない、とらない! 鎖をといて!!」

降参だと身体を揺らすメア。

静芽は瀬織と遊磨にアイコンタクトをとり、渋々と鎖をとく。

解放されたメアは即座に大きく飛び跳ね、バラの庭園で舌を突き出しながら私たちに手を振った。

「じゃ、ね!」
「あっ……」


メアが消え、身体が亜照奈のものになる。

憑依していた存在がいなくなり、亜照奈の身体から力が抜けて膝からカクンと折れた。

遊磨が急いで駆けつけ身体を抱き起こすと、うめき声をあげて亜照奈のまぶたが持ちあがる。

「えっ!? えっと、ゆ、遊磨さん……でしたか?」
「お~、覚えてるんだ?」

パチッと大きな目が開き、真っ青になってうろたえる。

「国都 亜照奈ちゃんで間違いない?」

「はいぃっ! 国都 亜照奈です、すみませんすみませんっ……!」

亜照奈は涙目になって肩をすくめている。
気が抜けるほど別人の顔だ。

気の強いメアの面影はなく、怯え切った小動物のような少女の顔をしていた。

あまりにオドオドしていたので、そろっと瀬織と目を合わせて笑いだす。

「「ふっ……」」

散々な一日ではあったが、瀬織と気持ちが一つになったことは喜ばしい。

幸せな一日に私は感謝し、話しあいはまた明日、と私たちはようやく休息らしい休息に行きついたのだった。